#9 決戦を終えた君へ
#8 神奈川県選手権5000mW 選手インタビュー
彼はまだ試行錯誤を続けている段階ですが、徐々に良い方向へ向かっています。
昨年途中棄権してしまった日本選手権50km競歩輪島大会の雪辱を晴らせるか、期待がかかります。
50km競歩ではいかに自分のコンディションを把握できるかが重要になります。
自分の動きに対する深い理解と、身体の状態を鑑みてトレーニングを積み重ねていく意思,一線を超えそうになったら練習をストップできる勇気などがそれです。
佐々木選手のこれからにご期待ください。
#7 競歩2.0 自分の世界が変わった瞬間
競歩を始めてから,あなたの世界はどれだけ広がっただろう。
僕は競歩を始めるまで,800mを走っていた。
陸上競技を始めて間もない中学生のときは砲丸投げをやっていて,それでも長い距離を走るのがちょっと速かったから,専門的にやれば勝てそうって思ったから高校では800mを選んだ。 強いチームではなかったから400mとマイルを含め,総体路線やユース路線の枠には入れていたが,自分の中では全く勝ててなくて,あんまり面白くなかったから,高2の総体でマイルを走って,先輩が全員引退したら陸上競技から離れようとすら思っていた。
その最後に引退した先輩が,競歩をやっていた。
彼の引退レースとなった2012年の神奈川県高校総体男子5000m競歩には,この界隈で知らない人は居ない,松永大介さん(富士通,当時横浜高3)が出ていた。 圧巻だった。 こんなレースがあるのかと思った。先輩を2回,3回と周回抜かしにしていく。 意味が分からなかった。陸上競技を好きだったはずの僕にすら知らない世界がそこにはあった。
その次の日,僕は競歩を始める意思を先生に伝えに行った。辞意ではなかった。
そこからの1年で僕の世界は急速に広がった。
県内で同じ代最速の選手にレース後,話しかけた。強いやつの友達になれば何か得られると思ったからだ。
元旦競歩という試合で,生まれて初めて県外の選手と同じレースに出た。 ビリから2番目だったが,雑誌やYouTubeで観た有名高校の選手と同じレースに出たという経験そのものが,僕のモチベーションを高めた。 こんなに努力しているのに日本の高校生でまだこの位置かと,燃えた。走っていたときには芽生えなかった感情だった。
2013年3月下旬,高校2年の春休みに初めて県外の選手と合宿をした。後に僕がコーチと慕う藤野原稔人さん(2003年パリ世界陸上男子20km競歩日本代表)が運営する合宿で,連絡さえすれば競技レベルを問わず受け容れてもらえた。 速い人たちは量も強度も,僕がやっていたのより遥かに高い練習をしていた。 今まで広がり続けていた世界が,少し近付いた気がした。
高3の県総体は5番落ちしたが,清々しく爽やかな負けだった。
高校生は自分のチームに籠りがちだ。 仕方がない,高校の部活は楽しいという人も多いはずだ。 学校生活とリンクしているから,同じグラウンドで練習している生徒同士で応援する-されるの構造が自然と出来るし,話題性もある。 同じチームの選手が隣で本気だったら,自分も本気になれる。
だが日本のracewalkerたちよ,あなたはそれよりももっと広い世界を,競歩を通じて見られるということを,誰よりも知っているはずだ。
僕は一般受験で大学に入って,箱根駅伝のチームの門を叩いた。 競歩選手の前例が無い大学だったが,直接監督に交渉しに行って,箱根を目指す選手とともに生活する権利を得た。周りは本当に尊敬できる選手ばかりで,昔夢見ていたハードな陸上競技の世界に躊躇なく飛び込んだ。
陸歩クラブという,競歩界に存在するコミュニティの中で最高レベルのクラブチームに誘ってもらえた。藤野原コーチからの勧誘だった。"一緒に練習させてもらえ"と。
大学1年から全日本と名のつくレースに出られるようになった。インターハイなどで戦い続けた人には出るだけでは物足りないと思うだろうが,当時の僕にとって"全国大会出場"は本当に重要な体験だった。
そして2017年の全日本50km競歩高畠のラスト10km,沢山の競歩選手が,コーチが,応援してくれた。知らない人も学校名を叫んでくれた。 アクシデントで何度も止まってしまって,結果は14位だったが自己ベストで,陸歩クラブの仲間が笑顔で迎えてくれた。
最後の年の箱根駅伝で,チームは目標を上回る6位だった。本当に嬉しかった。
こんな体験なら,みんなあるはずだ。
競歩をやっていたから知り合えた人達。
競歩をやっていたから行けた土地。
競歩をしてから気付いた身体の使い方。
競歩を始めたから得た自己肯定感。
競歩をやるために決めた進路。
競技スポーツの楽しさ。
この体験は競歩という特殊なスポーツにこそ存在し,他のスポーツにはない固有なものだ。トップ選手でなくても,自分の世界は急速に広がる。
ネガティブなことがここにあったか?
これを伝える権利を君達は手にしている。
競歩2.0の入口は,それぞれのエピソードを振り返ることだ。
#6 競歩2.0 序章
#5 日本選手権50km競歩
- 女子50km競歩が国内選手権で執り行われたことは非常に意義深い。
- 当該種目の選手は,スポーツ界の男女不平等をハックする力を持っている。
#4 全日本競歩輪島大会
#3 持久系スポーツにおけるウエイトトレーニング:概論
こんにちは、代表のきむらです。
本日からトレーニングについて僕の考えを述べていきます。
僕が競歩種目に取り組んでいて他選手と違うことの1つとして、高重量のウエイトトレーニングを実践していることが挙げられます。学部の友人の言葉をヒントにトレーニングの重要性に気づき、大学3年次にストレングストレーニング&コンディショニング(S&C)の分野を学びました。以来、ストレングストレーニングは僕の競技を支える重要な要素となっています。
ウエイトトレーニングはストレングストレーニングの一種で、バーにプレート(重り)を乗せたものを担ぐ、または持ち上げるエクササイズを総称したものです。それを僕はスクワット,デッドリフト,ベンチプレスなどの筋力向上を狙うもの(:ストレングスエクササイズ)とパワークリーン,ジャーク,スナッチなど、RFD(Rate of Force Developement; 力の立ち上がり率)向上を狙ったもの(:クイックリフト)に区別し、トレーニングを検討します。
持久系スポーツが専門の選手が適切なウエイトストレーニングに取り組むことによって、以下のような利益を得ることができる可能性があります。
- 動きの効率化
- スポーツ障害の予防
- ランニングエコノミーの改善
- スパート能力の改善
- etc.
僕はこの中でも「動きの効率化」と「故障・怪我予防」に重点を置いてウエイトトレーニングに取り組んでいます。さて、それはどういうことでしょうか?
「ウエイトトレーニング」は動作の効率化を助ける
ウエイトトレーニングを継続的に行うことで運動単位の動員数が増え、その結果として発揮できる筋力が高まるとされています。例えばランニングにおいて、股関節の伸展筋群である臀部の筋肉をうまく使えていない人がいたとします。そういう人は臀部を動作の中で使えるようにするために動作中の意識を高めたり、様々なランニングドリルに手を出すものですが、そもそも運動単位動員数が少ないと筋発揮がうまくできないため、適切に動かすことができなかったり、そもそも臀部を使う感覚自体がよくわからなかったりします。
僕も競歩において、昔からお尻周りの筋肉が使えていないと指摘され、それを改善するドリルを教わったりして実践していましたが、いつまで経ってもお尻を使う感覚が分からないままでした。ウエイトトレーニングを本格的に始めてから2ヶ月くらいした辺りから「股関節を伸展させるってこういうことか!すげー!!」となりました。
また、ウエイトトレーニングによって拮抗筋に対する抑制が高まることも、動作の効率化が進む機序の一つとして考えられます。例えば膝を曲げる時、主な手動筋であるハムストリングスを動員して膝を屈曲しますが、それと同時に前腿にある大腿四頭筋がリラックスしなければ膝は曲がりません。これと同じようなことが人間の関節の至る所で常に起きていて、スポーツ動作中のように速く強く筋収縮を繰り返しているときには身体を効率的に動かすために、この機構がとても重要になります。
「ウエイトトレーニング」は障害の予防に繋がる
持久系スポーツ選手はその競技特性から骨密度の低下による「疲労骨折」や、アキレス腱に関する障害,腰痛などを引き起こすことがあります。ウエイトトレーニングの実施によって骨密度の向上や筋腱組織の強度が長期的には高くなるとされているため、非常に有効な手段と言えます。
腰痛に対しても、適切な指導を行えるコーチの元で、適切な負荷のウエイトトレーニングを実践することで、腰椎周りの安定性を高めることができ、腰痛の症状を緩和させることが可能です。僕も過去に指導した選手の、適切なウエイトトレーニングの実践がヘルニアの症状緩和に繋がったと言える場面に遭遇しました。
反論があるのも事実です
とは言え、日本において持久系スポーツの選手がウエイトトレーニングを行うことは、女性のスポーツ選手がウエイトトレーニングを行うことと同様、否定的な意見も根強くあります。
- 体重が増えるから動きが鈍くなる
- 体重が増えるから最大酸素摂取量が下がる(←それっぽく聞こえる)
- 怪我のリスクがある
- etc.
これらの意見は根拠のない思い込みが背景にありますし、それなりに知識はあるが間違った考え方をしてしまっているということもあります。また、安全に配慮しておらず、目的意識を明確に持たないウエイトトレーニングではパフォーマンスの向上が見られないこともあります。可能であれば全てのスポーツ選手が個人の目的に応じて、ウエイトトレーニングに取り組む,または取り組むことへの抵抗感をなくすことが、持久系スポーツ含め全てのスポーツにおいて大切なことではないか、と僕は考えています。
これからもウエイトトレーニングについては少しずつ発信していきます。
結論
- 僕はウエイトトレーニングが大事だと考えています。
- 今後もそんなことを書いていきます。
参考
- Thomas R. Baechele Roger W.Earcle ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版
- 長谷川博 エンデュランストレーニングの科学-持久力向上のための理論と実践-
- 勝田茂 征矢英昭 運動生理学20講
-
http://kawamorinaoki.jp/ ←S&Cの考え方について、いつも参考にさせて頂いています!!