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陸上競技クラブチーム"SNE Athletes"の公式ブログ

#9 決戦を終えた君へ

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強い日差しが照らす中、高校生最強を決める決戦が始まった / photo by 石田優希(@rinrin_118421)
 
酷暑の中、レース,試技、お疲れさまでした。
 
 
望んだ結果を手にした君も、悔し涙を流した君も、全ての高校陸上選手が羨むインターハイの舞台に立てたことこそが輝かしい。誇りに思ってください。
 
君達はおそらく、高校生活の大部分を陸上に費やしてきて、普通の人達が味わうことの無いような強烈な重圧に耐えながらも、一方でそれを楽しみながら三重のトラックを踏んだはずです。特に自分の人生に大きな影響を及ぼす高校時代にそんな素晴らしい経験をすることができた君達は、これから違う分野の違う舞台に挑戦しても、同じように乗り越えていけます。これから直面する学問や資格試験、就職しても、起業したっていい。そのガッツで、挑戦していく準備はできています。
 
 
 
しかし、これからも陸上を続ける君は、一度立ち止まって考えないといけません。
 
 
まず何のために陸上をやるか。
勝つため?楽しむため?
 
勝つためなら、なぜ勝ちたいの?箱根駅伝に出たい?自分の可能性を追及したい?勝てなくて悔しかったから?それとも、周りに励まされて仕方なく?
 
 
ここが有耶無耶だと、非常に苦しいです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕は、自分なりに明確な意思を持って大学でも競歩を続ける決断をしました。そのときはただ単純に自分の可能性を追求したかったのと、勝てない理由を他人に転化しない環境で競技をやりたかったから。そして、あえて競歩専門の指導者がいないかつスポーツ科学を好きなだけ学べる法政大学に進みました。
 
文字に起こすと見栄えが良いですが、これはある意味相反する行為です。勝ちたいなら勝つ人と生活するのが1番だし、実際のところ、強豪高校出身の有名選手と同じチームでいることで、自分の自尊心を傷つけたくなかったのがあの時の本心だったんだろうと思います。本当の力の差を見せつけられたくなかった。
 
 
自分の可能性を追求するのと指導者のいない環境に飛び込むのは相反する行為です。それを薄々理解しながら僕は大学で2年間競技を続けました。結局思うように結果が出なくて苦しくなって、何度も辞めようと思いました。
 
 
でもやっぱり根底には陸上が好きだという気持ちがあって、競歩の楽しさに惹かれていて、辞めることができませんでした。競歩で知り合ったコミュニティは本当に素晴らしいし、学べることばかり。僕が競歩をやっていなかったら、箱根駅伝のチームで生活する日々とか、日本全国に知り合いが出来るなんてことは無かったかもしれない。競歩で強くなるための探求に向かってや,スポーツ界全体を考えるために、勉強や研究活動にのめり込むことになることなんてあり得なかった。
 
 
もちろん競技スポーツで勝つこと,強くなることを第一に考えて環境を選ぶことは非常に大切です。ただ、君達のように広い可能性を持った人達にはそれだけじゃなくて、もっと先のこととか、競技スポーツの勝つこと以外の側面とか、そういうことを視野に入れて、自分を見つめ直してみて欲しい。
 
 
僕の周りには、競技以外に目標があって、それでも競歩で勝てるように試行錯誤してる人達が何人もいます。生徒たちの将来を真剣に考えながら暗闇のアンツーカートラックで黙々と練習してる高校教師, 看護師を目指して忙しい実習の合間を縫って歩き続ける医療人の卵, フルタイムの仕事をしながら日本代表を目指すたくさんの社会人ウォーカー。
 
 
もちろん、大学に所属して競技に熱中することは本当に素晴らしいことです。でもそれ以外の道も沢山あるんだってことに気づいて欲しい。
 
 
 
 
決戦を終えた君へ
 
いつまでもスポーツの価値を高める"人"であれ。

 

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この青いキャンバスにどんな未来を描けるだろうか / photo by 石田優希 @ririn118421



#8 神奈川県選手権5000mW 選手インタビュー

 
代表のきむらです。
 
6/23(土)に行われた神奈川県選手権に、弊チームより男女合わせて3名の選手が出場し、男女それぞれ1名ずつ、表彰台に上がることができました!!!
 
 
男子5000mW
2位 佐々木和暉 21'56"53
 
女子5000mW
3位 根本侑実 25'29"34
 
応援ありがとうございました。
今回は準優勝を果たした、佐々木選手のインタビューをお届けします。
 
 

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-県選手権お疲れさまでした。準優勝おめでとうございます。本大会は佐々木選手の中でどういった位置付けだったのてしょうか?
 
佐々木 4ヵ月間レースから遠ざかっていたので、復帰戦として、また就職活動のストレスの捌け口としてのレースでした。
 
 
-レース展開についてお聞かせください。
 
佐々木 序盤はあまり速く入らず、自分のリズムを整えた上で先頭を追っていこうと思っていました。途中で警告が2枚出てしまったので、ペースを落とさざるを得なくなり、そこに関してはもったいなかったかなと思います。
 
 
-優勝した石川昌也選手(横浜高→東洋大3)は佐々木選手の高校の後輩ですね。彼についてはどういった印象を持っていますか?
 
佐々木 大舞台できっちり結果を出してくる、本当に勝負強い選手だと思っています。彼は後輩ですが、本当にいつもお手本にさせてもらっています。
 
-刺激になる存在ということですね。
 
佐々木 はい。
 
 
 
-話は少し変わります。昨シーズンは2月の日本選手権20kmが1:30'53, 3月の全日本競歩美大会は1:34'50と、いまいち決めきれなかったレースが多かったようですが、振り返ってみてどう思われますか?
 
佐々木 非常に情けない結果だと思います。目標の90分切りに遠く及ばず、特に能美は何しに行ったんだって感じですね。自分の甘さを痛感したレースでした。
 
 
-能美の敗因として、どのような点が挙げられますか?
 
佐々木 自分の調子を過信し過ぎていたことと、ケアが行き届いてなかったことですね。
 
 
-すでに大学生としてのラストシーズンに突入しています。今シーズンになって大切にしていることや、取り組みたいことは何ですか?
 
佐々木 単純に追い込むのではなく、余裕を持ってスピードを出せるように意識しています。今までは試合の長い距離に繋がらないようなスピードの出し方をしていたので、それについて考えを巡らせながら練習に取り組んでいます。
 
-最後に、次のレースとその意気込みをどうぞ。
 
佐々木 次の大きなレースは全日本50km競歩高畠大会となります。2回目の50kmです。就職活動でここまであまり練習できていませんが、夏場にしっかり歩き込み、少しでも上で戦えるように頑張ります。目標は宮島さん(NWS所属,フルタイム勤務選手)や木村さんのように、誰かを感動させられる歩きをすることです。
 
-ありがとうございました。頑張ってください。

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佐々木和暉-横浜高-早大同好会-SNE Athletes 高校時代は南関東大会出場。早稲田大学には一般入試で入学し、今年度よりSNE Athletesに加盟。レースに向けてのコンディショニングがこれからの課題となる。

 

彼はまだ試行錯誤を続けている段階ですが、徐々に良い方向へ向かっています。

昨年途中棄権してしまった日本選手権50km競歩輪島大会の雪辱を晴らせるか、期待がかかります。

 

50km競歩ではいかに自分のコンディションを把握できるかが重要になります。

自分の動きに対する深い理解と、身体の状態を鑑みてトレーニングを積み重ねていく意思,一線を超えそうになったら練習をストップできる勇気などがそれです。

 

 

佐々木選手のこれからにご期待ください。

 

 

 

#7 競歩2.0 自分の世界が変わった瞬間

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競歩を始めてから,あなたの世界はどれだけ広がっただろう。

 

 

 

 

僕は競歩を始めるまで,800mを走っていた。

 

 

陸上競技を始めて間もない中学生のときは砲丸投げをやっていて,それでも長い距離を走るのがちょっと速かったから,専門的にやれば勝てそうって思ったから高校では800mを選んだ。 強いチームではなかったから400mとマイルを含め,総体路線やユース路線の枠には入れていたが,自分の中では全く勝ててなくて,あんまり面白くなかったから,高2の総体でマイルを走って,先輩が全員引退したら陸上競技から離れようとすら思っていた。

 

 

 

その最後に引退した先輩が,競歩をやっていた。

 

 

 

 

彼の引退レースとなった2012年の神奈川県高校総体男子5000m競歩には,この界隈で知らない人は居ない,松永大介さん(富士通,当時横浜高3)が出ていた。 圧巻だった。 こんなレースがあるのかと思った。先輩を2回,3回と周回抜かしにしていく。 意味が分からなかった。陸上競技を好きだったはずの僕にすら知らない世界がそこにはあった。

 

 

 

その次の日,僕は競歩を始める意思を先生に伝えに行った。辞意ではなかった。

 

 

 

 

 

そこからの1年で僕の世界は急速に広がった。

 

 

県内で同じ代最速の選手にレース後,話しかけた。強いやつの友達になれば何か得られると思ったからだ。

 

 

元旦競歩という試合で,生まれて初めて県外の選手と同じレースに出た。 ビリから2番目だったが,雑誌やYouTubeで観た有名高校の選手と同じレースに出たという経験そのものが,僕のモチベーションを高めた。 こんなに努力しているのに日本の高校生でまだこの位置かと,燃えた。走っていたときには芽生えなかった感情だった。

 

 

2013年3月下旬,高校2年の春休みに初めて県外の選手と合宿をした。後に僕がコーチと慕う藤野原稔人さん(2003年パリ世界陸上男子20km競歩日本代表)が運営する合宿で,連絡さえすれば競技レベルを問わず受け容れてもらえた。 速い人たちは量も強度も,僕がやっていたのより遥かに高い練習をしていた。 今まで広がり続けていた世界が,少し近付いた気がした。

 

 

高3の県総体は5番落ちしたが,清々しく爽やかな負けだった。

 

 

 

 

 

高校生は自分のチームに籠りがちだ。 仕方がない,高校の部活は楽しいという人も多いはずだ。 学校生活とリンクしているから,同じグラウンドで練習している生徒同士で応援する-されるの構造が自然と出来るし,話題性もある。 同じチームの選手が隣で本気だったら,自分も本気になれる。

 

 

だが日本のracewalkerたちよ,あなたはそれよりももっと広い世界を,競歩を通じて見られるということを,誰よりも知っているはずだ。

 

 

僕は一般受験で大学に入って,箱根駅伝のチームの門を叩いた。 競歩選手の前例が無い大学だったが,直接監督に交渉しに行って,箱根を目指す選手とともに生活する権利を得た。周りは本当に尊敬できる選手ばかりで,昔夢見ていたハードな陸上競技の世界に躊躇なく飛び込んだ。

 

 

陸歩クラブという,競歩界に存在するコミュニティの中で最高レベルのクラブチームに誘ってもらえた。藤野原コーチからの勧誘だった。"一緒に練習させてもらえ"と。

 

 

大学1年から全日本と名のつくレースに出られるようになった。インターハイなどで戦い続けた人には出るだけでは物足りないと思うだろうが,当時の僕にとって"全国大会出場"は本当に重要な体験だった。

 

 

そして2017年の全日本50km競歩高畠のラスト10km,沢山の競歩選手が,コーチが,応援してくれた。知らない人も学校名を叫んでくれた。 アクシデントで何度も止まってしまって,結果は14位だったが自己ベストで,陸歩クラブの仲間が笑顔で迎えてくれた。

 

 

最後の年の箱根駅伝で,チームは目標を上回る6位だった。本当に嬉しかった。

 

 

 

 

 

こんな体験なら,みんなあるはずだ。

 

 

 

 

競歩をやっていたから知り合えた人達。

 

競歩をやっていたから行けた土地。

 

競歩をしてから気付いた身体の使い方。

 

競歩を始めたから得た自己肯定感。

 

競歩をやるために決めた進路。

 

競技スポーツの楽しさ。

 

 

この体験は競歩という特殊なスポーツにこそ存在し,他のスポーツにはない固有なものだ。トップ選手でなくても,自分の世界は急速に広がる。

 

 

 

 

ネガティブなことがここにあったか?

これを伝える権利を君達は手にしている。

 

 

 

 

競歩2.0の入口は,それぞれのエピソードを振り返ることだ。

 

 

#6 競歩2.0 序章

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日本競歩界はここ数年,史上最高に盛り上がりを見せている。
 
 
 
 
2015年に行われた北京世界陸上男子50km競歩谷井孝行選手(自衛隊体育学校)が銅メダルを獲得した。日本競歩界としては史上初のメダル獲得だった。
 
 
 
続く2016年のリオデジャネイロオリンピック男子50km競歩で荒井広宙選手(自衛隊体育学校)が銀メダルを獲得,待ち焦がれたオリンピックでのメダルだった。
 
 
 
更に翌年,ロンドン世界陸上の男子50km競歩では荒井選手,小林快選手(ビックカメラ),丸尾知司選手(愛知製鋼)がそれぞれ2,3,5位という,出場選手全てが入賞し,金メダルこそ届かなかったが表彰台に日本人が2人並んだ。
 
 
 
そしたつい先日,世界競歩男子50km競歩で,荒井選手,勝木隼人選手(自衛隊体育学校),丸尾選手の3名で表彰台を独占した。史上初の快挙だ。更に池田向希選手(東洋大2)が男子20km競歩で圧巻のスパートを見せつけ,それまで勝ちきれなかった20kmという距離で優勝,世界的には若干20歳のダークホースとして名を馳せた。
 

 

 
 
 
 
競歩界はさぞ盛り上がったことだろう。
 
 
 
 
 
だが世間はどうだ?
 
 
 
 
 
テレビで一部取り上げられたが,世界卓球や芸能界のスキャンダルの方が遥かに大きく取り上げられていて,世間では微妙な反応だ。世界競歩で表彰台独占を果たしたと周りに言っても,返ってくるのは”普通”の言葉,「すごいね」。
 
 
 
 
 
 
日本のracewalkerたちよ。これで良いのか?
 
 
 
 
 
”マイナーだから"で終わらせて良いのか?
 
 
 
競歩は本当にただきついスポーツか?
 
 
 
競歩の強み”は何だ?
 
 
 
みんなが口を揃える良さが競歩にはある。
 
 
 
トップ選手のbuzzに頼るだけじゃだめだ。
 
 
 
競歩だし”という諦観を持つのはやめよう。
 
 
 
どのレベルのracewalkerにもできることはあるはずだ。
 
 
 
 
 
まだ見ぬ競歩の世界を見るために,競歩界をアップデートしよう。
ここに競歩2.0を宣言する。
 
 
 
 
 

#5 日本選手権50km競歩

こんにちは,代表のきむらです。日が開いてしまいましたが,4/15(日)に行われた日本選手権50km競歩についてお話したいと思います。
 
【要約】
  • 女子50km競歩が国内選手権で執り行われたことは非常に意義深い。
  • 当該種目の選手は,スポーツ界の男女不平等をハックする力を持っている。
 
 
さて,男子は野田明宏選手(自衛隊体育学校)が3時間45分56秒の好タイムで優勝しました。彼は2016年の全日本競歩高畠大会で初50kmに出場し,残念ながら途中棄権してしまいました。その光景を同レースに出場していた僕は鮮烈に覚えていたので,今回の結果を聞いてとても嬉しかったです。 同期ですし,これからも応援していきたいと思います。
 
男子のレースについては様々な方が考察を進めていらっしゃると思います。 ですので僕はもう一つの,今回日本選手権として初めて行われた女子50kmについて少し変わった切り口で書いていこうと思います。
 
 
  国内初 女子50km競歩の選手権 
 
レースには9名の選手が出場し,園田世玲奈選手(中京大3)が4時間31分52秒で制しました。約5'25/kmのペースで50kmを歩くもので,レース運び自体もとても安定していて,初50kmでこれだけ歩くのかと僕自身感銘を受けました。終盤まで園田選手と競っていた2位の熊谷菜美選手(国士舘大3)も4時間39分01秒でゴール。 その他出場選手8名がゴールし,完歩率が非常に高いレースとなりました。 
 
また,前日のジュニア10km競歩にも出場していた田牧明花音選手(広島大1)も4時間53分50秒で完歩し,誰もが驚く"2日間で60km歩破"という偉業を成し遂げました。 彼女はつい先月まで高校生だった神奈川県出身の選手で,昨年3月に行われた全日本競歩美大会20kmのレース(1時間39分53秒でゴール)を観て度肝を抜かれ,以来注目しています。考えてみてください,彼女は当時まだ高校2年生です。 今回も大学入学直後に10km+50km, 常識をぶち壊しまくってます(ジュニア女子10kmは48分13秒で6位)。  
 
この50km競歩という種目について,昨年3〜4月の間に国際的な議論が巻き起こりました。それは2019年以降の陸上競技世界大会において,男子50km競歩を廃止するか否かと言ったものでした。  国際オリンピック委員会(IOC)が50km競歩を,男女の機会不均等や近年の五輪種目のトレンド(競技時間が短い,観ててルールが分かりやすい)を鑑みて,廃止しようとの提案を出しました。その後オーストラリアのChris Erickson氏によるネット署名や,IOC国際陸上競技連盟(IAAF)との意思伝達の齟齬が明らかになったことによって,暫定的に2017年ロンドン世界陸上,2019年ドーハ世界陸上2020年東京五輪での開催が決定しました。(事実関係は私が把握している範囲,誤りや最新の動向などあればご指摘頂けると有り難いです。)
 
 世界的な動向として,スポーツだけでなく社会的にも男女不平等について議論されてきています。 セクハラや雇用の問題など様々です。日本ではつい先日,急病人の救命救急をするため相撲の土俵に上がった女性の医者の方に対し「土俵から降りてください」とアナウンスされたことが大きな問題となりました。 
 
これってすごい難しくて,例えば僕自身が男女の不平等を助長する行動をしていないって言い切ることができないんですよ。 あなたが男性なら,知らないうちに女性軽視をしてしまってるかもしれないし,あなたが女性なら,飲み会とかで女性というだけで男性よりも低い金額で済まされてるかもしれません。 いずれも男女不平等の論点です。 
 
で,今まで女子50km競歩は,恐らくそんな観点から世界大会で開催されてきませんでした。 gender論ではなく,sex的な観点から。ただでさえ運営時間が長い50km競歩を,世界大会で執り行うのに抵抗があったとか,競技人口がどうなるか不透明だとか,その他にも様々な理由があったはずです。 
 
それが昨年のロンドン世界陸上から急遽,女子50km競歩のレースが行われ,7名の選手が出場しました。確かIAAFからアナウンスがあったのが2016年の年末とかでした。参加標準記録は4時間30分だったので,アナウンスから8ヶ月で標準切り,本番レースの2本に向けて調整しなければいけなかったはずなので,出場した選手は非常に難しい条件だったと思います。 
 
そして先日の日本選手権競歩で,国内選手権(オープン扱いですが)として初の女子50km競歩が開催されました。  

 

 
女子50km競歩の選手はスポーツ界をハックできる
 
僕は今回の輪島で50km競歩に挑戦した9名の選手に最上級の尊敬を表します。始まったばかりの女子50km競歩はまだまだマイノリティで,前例もそんなにないし,出場するだけでも勇気が必要だったはずです。男性でも最初は躊躇する選手が多いのに,先陣切ってスタートラインに立ったことが既に尊いです。 
もう1つ,女性はコンディショニングが男性と比べて難しいはずです。"Low energy availavility”,”無月経”,"骨密度の低下"が問題となる三主徴や,月経周期それ自体もコンディショニングに含めなければなりません。 これらを考慮しながらトレーニングとコンディショニングの両立が難しい50km競歩を,8/9人が完歩した事実は,スポーツ界に根強く残る男女不平等の空気をハックできる可能性があるという点でとても意義深いです。 
 

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彼女たちが50kmに挑戦したことは非常に重要(撮影:@dsdsdskoi300 さん) 
 
 
 女性は男性と比べて,身体能力が低いと言われ続けてきた過去があります。2016年夏に高野連が,甲子園会場での事前練習をしていた高校のマネージャーがグラウンドに立って練習のサポートをしていたことを咎め,その規則を含め問題になりました。当時高野連内には「硬球が飛び交うグラウンドに女子部員を立たせて危険に晒すわけにはいかない」という意見があったようですが,そもそも規定で試合前練習の補助員は男子に限定する旨の文言があるのが問題で,この女子マネージャーはそういった点で,野球界をハックするきっかけを作りました。だって女子マネージャーは普段から硬球が飛び交うグラウンドで練習の補助をしていたはずなのに,試合前だけ禁止するって,すごい的外れですよね。女性の能力軽視とか甲子園のマウンドに女性を上げたくない神聖化の精神とか,そういうのが背景にあったんじゃないかと考えてしまいます。 
 
このようなことはきっと至る所にあって,でもそれは少しずつ女性選手の力でハックされ続けています。女子の格闘技も近年は普通に行われるようになりましたし,陸上競技では女子十種競技以外,投擲物の重さやハードルの高さこそ違えど,全ての種目が女子に解放されました。 
 
"男女で生物学的に差があるのは覆し難いが,だからと言って女性が参加できない規定には賛成しかねる,枠組みがなければ男女ともに声を上げて作るべき"というのが僕の意見です。これは非常に重要で,例えばスポーツは基本上層組織がありますが,彼らが「きっと出来ないし,面白くないから禁止」っていうのと,「別にやってもいいけど,何があっても知らないよ」っていうのなら,後者の方が圧倒的に民主的なスタンスです。当事者の世間に訴えかけていく力が求められるという点で,自由競争の枠組みに突入していくのは,これまでに発展してきたどのスポーツも辿ってきた道なので,これからもそういう事例が女性スポーツにおいて起こってくることが考えられます。
 
今回の女子50km競歩はそういった意味で非常に意義深いものでした。  
 
 
指導者になるなら女子50kmが面白い 
 
またいつか書きますが,競技の第一線を退いたら後進のコーチをしたいと考え,大学でもその辺を色々考えながら学んできました。大学2年のときくらいから上記のようなことを考えてきて,周りにずっと女子の50km競歩選手に携わりたいと主張していました。こういう流れが今日本に来ていて,その流れを感じながら競技生活を送れていることは本当に面白くて,もっと色々なことを知らなければと思う今日この頃です。 
 
輪島に出場された方々,改めてお疲れさまでした。現地には行けていませんが,現地からの実況やリザルトを見て,大きな刺激を受けました。  
 
この時期は,毎年こんなことを考えさせられます。なんか暗いみたいに感じるけど,意外と愉しいですよ。  
 
 
【編集後記】
 
以前とある方から「木村の書く文章長いから読むのめんどい」と言われ,まぁそうですよねってなりました。正直興味ない人は全部読まないと思います。ですので,今回みたいな長い文章のときは文頭に【要約】を付けるようにします。今回は3000字超えの記事ですが,それを2行で読めるので,コスパ()は高いはずです。ぜひご活用ください。 
 
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#4 全日本競歩輪島大会

代表のきむらです。約2ヶ月ぶりの更新となります。
 
昨日石川県輪島市で行われた表題のレースに当チームの選手が1名出場しました。
 
<女子全日本10km>
根本侑実 51'29 7位
 
ということで,当チームの初陣を入賞という形で盛り上げてくださいました。おめでとうございます!
以下,試合後に行った根本選手へのインタビューを掲載します。
 
 
--レースお疲れさまでした。今回のレースは根本さんの中でどういった位置付けだったのでしょうか?
 
日本選手権にまた出れたらいいなと頭の片隅で考えていました。
が、一度引退してゼロから再開した身というのもあり、どこまで行けるのか自分でもよくわからず、ただただ「速く歩いてこよう」という陸上を始めた頃の純粋な気持ちで挑みました。

 

 
 
--引退してからレースに出るレベルまで状態を戻すのは大変だったかと思いますが,難しかった点などはありますか?
 
再開した最初の数ヶ月は、体力がない今の自分を受け止め、信じ続けることが大変でした。でも、一緒に練習してくれる皆さんにちょっとでもついて、じゃあ来週は今日より1秒、2秒、....と地味な目標を立て自信をつけていくようにしました。それでやっと周りの練習に追い付いていくことができました。
ひとりでは前に進めなかったと本当に感じているので、私と関わり励まし続けてくれた皆さん一人一人に感謝の気持ちでいっぱいです。
 
 
--復帰戦となった元旦競歩大会では53'36,そこから約3ヶ月で2分もタイムが縮まりました。 この間は何を意識されたんでしょう?
 
特に意識したことはないです。週末の練習を楽しみに生きてきました!
 
 
--毎週の積み重ねの結果ということですね。次の目標は?
 
神奈川県選手権に出るために休みを頂くことです。笑
 
 
--最後に,フルタイムで勤務しながら練習していく上で,何かコツや気を付けていることがあれば教えてください。
 
人によって考え方は違うと思いますが、勤務日は距離も時間も短くパッと終わらせてます。休日は、そのぶん集中して1回の練習を大切にしてます。
時間がないことを仕事のせいにするのではなく、ストレスのない練習リズムを自分で作ること。仕事の良いところを見つけて上手く味方につけていくことを心がけています。
 
--ありがとうございました。
 
 
 
社会人になっても空いた時間に練習を積み重ね,競技に取り組む姿勢はうちのチームの理念を体現してくださっていて,その結果も付いてきて,仲間として本当に嬉しい限りです。
 
 
さて、今日4/15は日本選手権50km競歩でしたね。
現地には行けていませんが、Twitterで状況を追いかけていました。出場された選手の方々、お疲れ様でした。
 
次回は日本選手権についてお話したいと思います。
 
 
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#3 持久系スポーツにおけるウエイトトレーニング:概論

こんにちは、代表のきむらです。

本日からトレーニングについて僕の考えを述べていきます。

 

僕が競歩種目に取り組んでいて他選手と違うことの1つとして、高重量のウエイトトレーニングを実践していることが挙げられます。学部の友人の言葉をヒントにトレーニングの重要性に気づき、大学3年次にストレングストレーニング&コンディショニング(S&C)の分野を学びました。以来、ストレングストレーニングは僕の競技を支える重要な要素となっています。

 

ウエイトトレーニングはストレングストレーニングの一種で、バーにプレート(重り)を乗せたものを担ぐ、または持ち上げるエクササイズを総称したものです。それを僕はスクワット,デッドリフト,ベンチプレスなどの筋力向上を狙うもの(:ストレングスエクササイズ)とパワークリーン,ジャーク,スナッチなど、RFD(Rate of Force Developement; 力の立ち上がり率)向上を狙ったもの(:クイックリフト)に区別し、トレーニングを検討します。

 

持久系スポーツが専門の選手が適切なウエイトストレーニングに取り組むことによって、以下のような利益を得ることができる可能性があります。

  • 動きの効率化
  • スポーツ障害の予防
  • ランニングエコノミーの改善
  • スパート能力の改善
  • etc.

僕はこの中でも「動きの効率化」と「故障・怪我予防」に重点を置いてウエイトトレーニングに取り組んでいます。さて、それはどういうことでしょうか?

 

 

 

「ウエイトトレーニング」は動作の率化を助ける

ウエイトトレーニングを継続的に行うことで運動単位の動員数が増え、その結果として発揮できる筋力が高まるとされています。例えばランニングにおいて、股関節の伸展筋群である臀部の筋肉をうまく使えていない人がいたとします。そういう人は臀部を動作の中で使えるようにするために動作中の意識を高めたり、様々なランニングドリルに手を出すものですが、そもそも運動単位動員数が少ないと筋発揮がうまくできないため、適切に動かすことができなかったり、そもそも臀部を使う感覚自体がよくわからなかったりします。

 

僕も競歩において、昔からお尻周りの筋肉が使えていないと指摘され、それを改善するドリルを教わったりして実践していましたが、いつまで経ってもお尻を使う感覚が分からないままでした。ウエイトトレーニングを本格的に始めてから2ヶ月くらいした辺りから「股関節を伸展させるってこういうことか!すげー!!」となりました。

 

また、ウエイトトレーニングによって拮抗筋に対する抑制が高まることも、動作の効率化が進む機序の一つとして考えられます。例えば膝を曲げる時、主な手動筋であるハムストリングスを動員して膝を屈曲しますが、それと同時に前腿にある大腿四頭筋がリラックスしなければ膝は曲がりません。これと同じようなことが人間の関節の至る所で常に起きていて、スポーツ動作中のように速く強く筋収縮を繰り返しているときには身体を効率的に動かすために、この機構がとても重要になります。

 

 

「ウエイトトレーニング」は障害の予防に繋がる

持久系スポーツ選手はその競技特性から骨密度の低下による「疲労骨折」や、アキレス腱に関する障害,腰痛などを引き起こすことがあります。ウエイトトレーニングの実施によって骨密度の向上や筋腱組織の強度が長期的には高くなるとされているため、非常に有効な手段と言えます。

 

腰痛に対しても、適切な指導を行えるコーチの元で、適切な負荷のウエイトトレーニングを実践することで、腰椎周りの安定性を高めることができ、腰痛の症状を緩和させることが可能です。僕も過去に指導した選手の、適切なウエイトトレーニングの実践がヘルニアの症状緩和に繋がったと言える場面に遭遇しました。

 

 

反論があるのも事実です

とは言え、日本において持久系スポーツの選手がウエイトトレーニングを行うことは、女性のスポーツ選手がウエイトトレーニングを行うことと同様、否定的な意見も根強くあります。

  • 体重が増えるから動きが鈍くなる
  • 体重が増えるから最大酸素摂取量が下がる(←それっぽく聞こえる)
  • 怪我のリスクがある
  • etc.

これらの意見は根拠のない思い込みが背景にありますし、それなりに知識はあるが間違った考え方をしてしまっているということもあります。また、安全に配慮しておらず、目的意識を明確に持たないウエイトトレーニングではパフォーマンスの向上が見られないこともあります。可能であれば全てのスポーツ選手が個人の目的に応じて、ウエイトトレーニングに取り組む,または取り組むことへの抵抗感をなくすことが、持久系スポーツ含め全てのスポーツにおいて大切なことではないか、と僕は考えています。

 

これからもウエイトトレーニングについては少しずつ発信していきます。

 

 

結論

  • 僕はウエイトトレーニングが大事だと考えています。
  • 今後もそんなことを書いていきます。

 

参考

  • Thomas R. Baechele Roger W.Earcle  ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版
  • 長谷川博 エンデュランストレーニングの科学-持久力向上のための理論と実践-
  • 勝田茂 征矢英昭  運動生理学20講
  • http://kawamorinaoki.jp/ ←S&Cの考え方について、いつも参考にさせて頂いています!!

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