#12 第57回全日本50km競歩高畠大会 出場選手紹介
50kmに及ぶ熾烈な闘いの第1歩を、この国の鉄人達が歩み始める時間だ。
自身のペース配分を始めフォーム,体水分量,カロリー摂取状況,体温,精神状況などを常に把握しながらライバル選手のみならず天候・気温を意識して約4~5時間、集中し続ける必要がある。
今回、50km競歩に出場する神奈川県出身の選手はこの2人のみだ。しかも両名とも、競歩の名門校として名を馳せるあの「横浜高校」出身の選手である。彼等の活躍が今後、神奈川県で競歩に取り組む学生達に勇気を与えることを切に願う。
そう語るのは1500mで4分05秒という、それだけでもハイレベルと言える自己ベストを持つ、大西和哉その人だ。
自己ベストは高校のときのものだが、 大学に入ってからも4分07秒で走破した実績がある。大学の駅伝部に所属することなく、長らく市民ランナーとして活躍していた。
競歩は大学に入ってから始めた。5000m競歩のレースに数回出場し、競歩の魅力に誘われた。2016年の全日本競歩高畠大会では10000m競歩,20km競歩を未経験ながら50km競歩に挑戦し、4:41’42という記録で完歩した。
「2016年のレースでは、"50km競歩”という種目を知ることができました。厳しさも、愉しさも。」
今大会では4時間35分切りが目標だと大西は語る。
「思うことは、ひたすらに”やらかしたい”。どういう事かというと、楽しさを爆発させて気づいたら驚く結果も出てたっていうイメージ。」
この大会のためにSNE Athletesに参画することになった。競歩の愉しさを追求する彼は、予てからSNEのユニフォームに袖を通す運命だったのかもしれない。
進路も決まったんで、もう迷うことはない。やってやりますよ。
佐々木は名門、早稲田大学の4年生だ。来年からの就職先も決まり、春シーズンと比べて精神的にも余裕が出てきた。
トラックシーズンはここ一番という関東陸上競技選手権大会5000m競歩で後輩にラストスパートで競り負け、4位でゴールするなど、不完全燃焼のイメージがあった。そのイメージを払拭すべく、夏明けの練習からは常に良いイメージで練習を継続することを心掛けてきた。
「自分の体調に合わせて、距離をあえて踏み過ぎないように気をつけてきました。あくまで本番で50kmをきちんと歩き切れればいいので、練習で満足することだけはないように、自分の内面と向き合っています。」
佐々木は50kmに向けて慎重だ。それは2017年の日本選手権50km競歩輪島大会において、オーバーペースで突っ込んで30km地点で途中棄権した経験があるから。当時のことをこう語った。
「あの時、周りには"何で棄権したんだ”とか、”まだいけそうだったのに”とか、指摘を頂きました。確かに動きに余裕があったのは事実ですが、オーバーペースで歩いていたのを自分で気にしていて、ペースが落ち始めた25km地点から、あと25km何とか歩いてゴールするビジョンが自分には見えなかった。練習が出来ていただけに、50km競歩に対する驕りがあの時はありました。」
1年半の間、佐々木は次の50kmに挑戦するためのイメージを膨らませてきた。クレバーにレースを進めること、佐々木がやるべきことはそれだけだ。
そしてもう1人。
同日開催の女子10kmの部にSNE Athletesの副代表、根本侑実が出場する。
「"楽しそうだね” と言ってもらえるように、できるだけ速く,生き生きと歩きます」
言わずもがな、ここではお馴染みの根本だ。
フルタイムワーカーゆえ、休みを取るために上司に頭を下げたに違いない。
目標は入賞。それ以外は語らなかった。レース直前に多くを語るのは苦手だと言う。
今年に入って現役復帰し着々と実力を高めてきた根本は、今大会で復帰後初めて、順位を目標として口にした。今回は順位の方が、タイムよりもワクワクするのだと彼女は語る。
紅紫色のユニフォームを纏う彼女の姿は、誰よりも目立つはずだ。彼女の競歩に対する愛を、観戦者には現地でぜひ堪能して欲しい。
日本を代表するトップ選手も数多く出場する今大会。
観戦する方々には上位陣はもちろんのこと、全ての選手に声援を向けて欲しい。