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陸上競技クラブチーム"SNE Athletes"の公式ブログ

#10 根本侑実選手 独占インタビュー

筆者は8月12日から16日にかけて濁河温泉スポーツレクリエーションセンターで行われた社会人競歩選手の強化合宿に参加しました。SNE Athletesからも筆者含め3人の選手が参加。その中で特に今シーズン、大きな進化を遂げている根本選手から話を訊くことができました。
 
深く話を掘り下げてみると練習や競技に対する姿勢などが、今と学生時代とでは大きく違っているそうです。そんな彼女に今シーズンの振り返りやこれからの展望、若手へのメッセージなどを話してもらいました。
 

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根本侑実-佐原高校-東京学芸大学-横浜市陸協-SNE Athletes 高校時代にインターハイ出場。東京学芸大学在学中は全日本インカレ,日本選手権などに出場経験あり。大学卒業後は競歩を一時引退したが、今年の元旦競歩大会から復帰し、4月からSNE Athletes創設メンバーとして加入。

 

 
 
(取材は8/15、20kmのロングが終わった日)
 
―練習お疲れ様でした。今日の練習は見ててとても良かったです。
 
 
根本 ありがとうございます。先月の学芸大学ナイターが終わってからあまり練習が出来ていなくて、この合宿に来るまでは練習をきちんと消化出来るか少し不安でした。でも標高約1700mという高地の環境で、 中1日で20kmを2回歩けたので状態が悪いわけではないんだなと自信を持つことができました。
 
 
―今年の7月は例年と比べて特に暑かったですし、難しかったかもしれないですね。
 
 
根本 それはあると思います。学生時代は暑さに強かったんです。でも大学を卒業してから復帰するまで、第一線のレベルで練習をしていない期間が1年半くらいあって、復帰してから初の夏なのでまだ暑熱順化がうまくできてない部分があったんだと思います。普段もクーラーが効いてるところで仕事をしているので、体温調節をしなくてもいい環境にいることが多いというのも要因の1つですね。
 
 
―ここ(飛騨御嶽)は酸素濃度こそ薄いですが、気温も湿度も低いので、涼しくて練習しやすい環境でしたね。 フォーム面も伸びやかな腕振りが常に安定していて、学生時代とは大きく変わってきています。
 
 
根本 涼しかったし、 集団のペースも安定していて歩きやすかったです。フォームについては復帰してから1度、藤野原さんにアドバイスを受けたことがあって、そのときに教わったフォームについての考えがとても府に落ちたのもあって、そこから競歩の動作について真剣に考えるようになりました。そのお陰かな?
 
 
―どうりで僕が好むフォームで歩いてる訳ですね(笑)  侑実さんは心肺機能が高いし、元々体を速く動かす素地はあったので、あとはいかに大きな動作を安定させるかが肝要だと思ってました。
 
 
侑実 今は学生時代と比べて練習時間を多く取れる訳ではないので、フォームについて究めることは大事だと考えています。
 

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終始安定したフォームで合宿のロングを歩き切った。

 

 
―神奈川県選手権についてお訊きします。25分29秒84で3位という結果で、SNE Athletes 創設1年目で既に2回目の表彰台となりました。この結果は侑実さん自身ではどう捉えていますか?
 
 
根本 まず、タイム的には納得できてないです。24分台はいけるんじゃないかな?と思っていました。まだ少し歩型に不安があって、 実際にレースを歩いているときは脚がついてこない感覚があり、呼吸も全然上がることなく、レースが終わってしまいました。疲労もほぼなく、不完全燃焼感が強いレースでした 。
 
 
―レース展開はどのようなものだったのですか?
 
 
根本  全体的にローペースでスタートしました。 私は先頭集団につきましたが、途中のペースアップで集団についていけないと判断し、第2集団で様子を伺う運びになりました。  順位を強く意識するならついていくべきでしたが、ハイペースで押していって勝ち切るビジョンが見えず、周りより自分のペースを優先する方が後半の勝負に繋がると思い、 結果的に3位に落ち着いた形です。
 
 
―その1週間後の学芸大学ナイターでは51分13秒99で全日本競歩輪島大会のときより15秒ほど速いタイムでゴール、シーズンベストとなりました。
 
 
根本 こちらも目標は50分台だったので、満足はしていません。元々輪島が終わってから、その前と同レベルのモチベーションを持ちづらい側面がありました。海外旅行に行った後の国内旅行って、ちょっと物足りない気がすると思うんだけど、そんな状態で。輪島から現状維持をしているだけって感じ。ハードセッションも酷いときは週1回とかで、スピードを上げた練習も少なかった。
 
 
 
―レース中は何を意識されたんでしょう?
 
 
根本 記録会なのと、元々他人との勝負とかは眼中になく、自分と時計との勝負だと思っていました。それとこの頃からフォームには自信がついてきていたので、1人で歩いても大きく崩れることはないという自信はありましたので、集中力だけは切らさないように注意しました。
 
 
―今回侑実さんの話を聴いてみて、ご自身としては100点をつけられないかもしれませんが、復帰して最初のシーズンとしては非常に良い調子でここまできていると思います。次は高畠競歩の10kmに出場されるとのことですが、展望を教えてください。
 
 
根本 まずはお休みを取れるように上司に頭を下げます(笑)
 
レースについては上位入賞を目指しています。もう神戸の日本選手権は出られるので、神戸を見据えて少し長めの練習に取り組む予定です。今は人と練習できるのは週1回のみで、練習をしていくにもレースをきちんと歩くにも、1人で練習できることが大前提になってくるので、そういった慣れの部分にも意識を巡らせる必要があるかなと思います。
 
 
―ここまで一貫して"順位よりタイム"を掲げてレースに向かっていた印象ですが、ここにきて目標が"上位入賞"と順位を狙うものに変わりました。これにはどういった心境の変化があったのでしょう?
 
 
根本 心境の変化というものはないかと思います。競技者としては、ん?と思われるかもしれないですが、その試合までワクワクできるような目標が、今回は順位だと思ったからです。この試合でこの結果を残すためにこの練習をして...というものではないです。いかに陸上競技を楽しむ毎日であれるか。その結果が嬉しい結果になるのを想像すると、どんなに毎日が楽しくなるか。と考えています。
あとは、SNE Athletes が発足したばかりなので、チームのために名前を売っていけたらと思います!
 
 
―大学時代にもそのような考えはありましたか?
 
 
根本 なかったです。高校時代とか学生時代とかは強烈な闘争心があって、それによる強迫観念がありました。"結果を出さなければ自分が競技を続けている意味はない", "早く結果を出さなければ引退の時期が来てしまう" と、タイムリミットにも追い込まれていました。
 
 
―僕も以前、侑実さんからその雰囲気を感じていました。いつも何かに焦っていて、厳しく練習しているのに、どこか歯車が合っていないような…。
 
 
根本 当時は競技をやる以上、緊張感を持って日々取り組むことが大切だと思っていました。でもそうじゃない世界もあって、むしろその方が調子が良い感じがしています。
 
 
―僕も普段から"厳しくやることが強くなるための最適解ではない"と掲げています。
 
 
根本  本当にそう思います。自分を追い詰めて強くなろうとすると短期的には良いかもしれないけど、それは続かないです。今回の合宿には本当に競歩が好きな人が集まっていて、先輩方を見ているといつまでも競技を続けられる気がします。最近練習をご一緒させて頂いている陸歩クラブのみんなも競歩を本当に愉しそうにやっていて、木村みたいに、後輩でもしっかり指摘やアドバイスをくれる後輩もいるので、今は前向きに競技を続けられています。
 
 
―今は競歩が愉しいから続けているんですね。
 
 
根本 小学校のときに戻ったような気分です。速くなることそれ自体が愉しい。試合に出られるのが決まるととてもワクワクします。遠足の前みたいな感じで、あと何週間,あと何日,ついに明日!みたいに(笑) 今はレース後、結果がどうであれ前向きに次の目標を立てられます。調子が悪くても憂鬱になることはないですね。
 
 
―ちなみに、50km競歩挑戦の予定はありますか?
 
 
根本  来年の高畠で挑戦できるように頑張りたいです。元々長い距離は走るのも歩くのも好きで、市民ランナー時代にはサロマ湖100kmの出場を考えたりしてました。
 
 
―個人的にはとても楽しみです。 最後に若い選手へメッセージをお願いします。
 
 
根本 現在競技を続けるか迷っている人や、怪我で悩んでる人、結果が出なくて辛い人へ。私は高校時代から学生時代前半にかけて全国大会等で成績を残しましたが、学生時代後半は練習のし過ぎや過度な減量による怪我や体調不良などでとても悩みました。でもそれを自分の努力が足りないからとか才能がないからとか、自分を責めないで。皆さんが積み重ねてきた努力は、1回の練習、数ヶ月のブランクくらいでは絶対に無駄になったりはしません。1度フラットな目線で、その厳しさは本当に強くなるために必要なのか、そもそも自分は何を積み重ねていくべきなのか、考えてみてください。
 
 
―ありがとうございました。
 

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競歩を愉しむことをライフワークとしている根本選手。彼女の旅路の征く先には、どのような青写真が描かれているのだろうか。

 

(文・写真:きむらかつや @racewalkim )