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陸上競技クラブチーム"SNE Athletes"の公式ブログ

#7 競歩2.0 自分の世界が変わった瞬間

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競歩を始めてから,あなたの世界はどれだけ広がっただろう。

 

 

 

 

僕は競歩を始めるまで,800mを走っていた。

 

 

陸上競技を始めて間もない中学生のときは砲丸投げをやっていて,それでも長い距離を走るのがちょっと速かったから,専門的にやれば勝てそうって思ったから高校では800mを選んだ。 強いチームではなかったから400mとマイルを含め,総体路線やユース路線の枠には入れていたが,自分の中では全く勝ててなくて,あんまり面白くなかったから,高2の総体でマイルを走って,先輩が全員引退したら陸上競技から離れようとすら思っていた。

 

 

 

その最後に引退した先輩が,競歩をやっていた。

 

 

 

 

彼の引退レースとなった2012年の神奈川県高校総体男子5000m競歩には,この界隈で知らない人は居ない,松永大介さん(富士通,当時横浜高3)が出ていた。 圧巻だった。 こんなレースがあるのかと思った。先輩を2回,3回と周回抜かしにしていく。 意味が分からなかった。陸上競技を好きだったはずの僕にすら知らない世界がそこにはあった。

 

 

 

その次の日,僕は競歩を始める意思を先生に伝えに行った。辞意ではなかった。

 

 

 

 

 

そこからの1年で僕の世界は急速に広がった。

 

 

県内で同じ代最速の選手にレース後,話しかけた。強いやつの友達になれば何か得られると思ったからだ。

 

 

元旦競歩という試合で,生まれて初めて県外の選手と同じレースに出た。 ビリから2番目だったが,雑誌やYouTubeで観た有名高校の選手と同じレースに出たという経験そのものが,僕のモチベーションを高めた。 こんなに努力しているのに日本の高校生でまだこの位置かと,燃えた。走っていたときには芽生えなかった感情だった。

 

 

2013年3月下旬,高校2年の春休みに初めて県外の選手と合宿をした。後に僕がコーチと慕う藤野原稔人さん(2003年パリ世界陸上男子20km競歩日本代表)が運営する合宿で,連絡さえすれば競技レベルを問わず受け容れてもらえた。 速い人たちは量も強度も,僕がやっていたのより遥かに高い練習をしていた。 今まで広がり続けていた世界が,少し近付いた気がした。

 

 

高3の県総体は5番落ちしたが,清々しく爽やかな負けだった。

 

 

 

 

 

高校生は自分のチームに籠りがちだ。 仕方がない,高校の部活は楽しいという人も多いはずだ。 学校生活とリンクしているから,同じグラウンドで練習している生徒同士で応援する-されるの構造が自然と出来るし,話題性もある。 同じチームの選手が隣で本気だったら,自分も本気になれる。

 

 

だが日本のracewalkerたちよ,あなたはそれよりももっと広い世界を,競歩を通じて見られるということを,誰よりも知っているはずだ。

 

 

僕は一般受験で大学に入って,箱根駅伝のチームの門を叩いた。 競歩選手の前例が無い大学だったが,直接監督に交渉しに行って,箱根を目指す選手とともに生活する権利を得た。周りは本当に尊敬できる選手ばかりで,昔夢見ていたハードな陸上競技の世界に躊躇なく飛び込んだ。

 

 

陸歩クラブという,競歩界に存在するコミュニティの中で最高レベルのクラブチームに誘ってもらえた。藤野原コーチからの勧誘だった。"一緒に練習させてもらえ"と。

 

 

大学1年から全日本と名のつくレースに出られるようになった。インターハイなどで戦い続けた人には出るだけでは物足りないと思うだろうが,当時の僕にとって"全国大会出場"は本当に重要な体験だった。

 

 

そして2017年の全日本50km競歩高畠のラスト10km,沢山の競歩選手が,コーチが,応援してくれた。知らない人も学校名を叫んでくれた。 アクシデントで何度も止まってしまって,結果は14位だったが自己ベストで,陸歩クラブの仲間が笑顔で迎えてくれた。

 

 

最後の年の箱根駅伝で,チームは目標を上回る6位だった。本当に嬉しかった。

 

 

 

 

 

こんな体験なら,みんなあるはずだ。

 

 

 

 

競歩をやっていたから知り合えた人達。

 

競歩をやっていたから行けた土地。

 

競歩をしてから気付いた身体の使い方。

 

競歩を始めたから得た自己肯定感。

 

競歩をやるために決めた進路。

 

競技スポーツの楽しさ。

 

 

この体験は競歩という特殊なスポーツにこそ存在し,他のスポーツにはない固有なものだ。トップ選手でなくても,自分の世界は急速に広がる。

 

 

 

 

ネガティブなことがここにあったか?

これを伝える権利を君達は手にしている。

 

 

 

 

競歩2.0の入口は,それぞれのエピソードを振り返ることだ。