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陸上競技クラブチーム"SNE Athletes"の公式ブログ

#16 根本選手、高畠競歩女子10km優勝!

2019年10月27日(日)全日本50km競歩高畠大会

 

SNE Athletesから出場した根本侑実選手が

見事、一般女子10kmの部で優勝(49分55秒)を果たしました。

 

 

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一般女子10km表彰式 学生達を前に怯むことなく勝利した根本選手。復帰後初めて表彰台の頂上に登った。

 

スタートして1周、2kmを過ぎる頃には既に1人旅。他者を寄せ付けぬペースで安定した歩きを見せ、5kmを24分39秒で通過する頃には後続に既に30秒近くの差をつける圧倒的レース。

 

そこからややペースを落とすも、危なげない歩きで優勝となりました。

 

「ひとまず無事に優勝できて良かったです。単独だったので競る相手がおらず、やや不完全燃焼感があります。記録の面でも不満が残る結果となりました。」

 

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終始単独歩となった根本選手。輪島でのレースと比べて力強い腕振りが印象的だった。

 

「次は広島県競歩で10000mの出場を考えています。2年間のブランクを乗り越え、勝負感はかなり戻ってきました。そろそろ記録を出したい。トラックで25周はちょっと長いけど、1周1周で意識を戻しながらレースを作れるのがトラックのいいところだと思うので。2月の日本選手権までにもう少し自信を付けたいです。」

 

 

 

根本選手の変化】

根本選手の強さを支える哲学があります。

 

私は学生時代から根本選手を知っています。その頃から彼女は非常にストイックでした。というかストイック過ぎて、正直に言って箱根駅伝のチームにいた私でさえドン引きしていたくらいです。

 

圧倒的練習量,故障しているのにバイク2時間+バイクインターバル,食事制限,アップ前に30分ジョグ&ダウンで30分ジョグetc...。挙げたらキリがありません。

 

詳しくは昨年のインタビューを参照↓

sneathletes.hatenadiary.jp

 

そんな彼女が社会人となり、ボロボロの状態から無事復活を遂げた背景には、彼女なりの新しい考え方がいくつか垣間見えます。それを私なりにまとめてみました。

 

 

 ①しっかりと食事を摂ること。

 

根本選手は、特に女子選手は適切なカロリー,栄養を摂取した上で練習に取り組む必要があると啓蒙しています。

 

根本選手は社会人になり、職場で子供達に料理を作る機会を得たことをきっかけに、栄養について独学。今ではアスリートが自身で簡単に作れる、栄養バランスの整ったレシピをレシピサイトに掲載しています。

 

彼女は学生時代に食事制限を初めとする過度な減量をし、故障や体調不良に見舞われた経験をしています。運動時間が長い競歩では特に、食事無くしてハードなトレーニングをこなすことはできません。この意識の変化が、アスリートとして根本選手を大きく変えるきっかけとなりました。

 

 

根本選手のレシピをここからチェック↓↓

oceans-nadia.com

 

 

  競歩をとにかく楽しむこと

 

学生時代は結果を出すことにしか競歩の意義を見出せなかったという根本選手。それが過度な減量やストイックな生活に結びついたとも言えます。

 

しかし、社会人となり仕事と競歩を両立しなければいけない今、そのようなストイックさで競技を続けるのは非常に難しい。自分を追い詰めて生活するのは短期的にはプラスの効果があります。しかし、社会人アスリートとして長く続けて熟練していくためには、競歩それ自体を愉しみ、自分の生きがいにしていく必要があります。

 

技術が上達していく喜び、競歩を通じて出会った友人との交流、競歩選手であるというアイデンティティ、全てを楽しめるようになると、根本選手のように社会人競歩選手として強く在り続けることができるのではないでしょうか。

 

 

 【最後に】

 

SNE Athletesでは、社会人としても競歩選手としても活躍していきたいという志を持ったメンバーを募集しています。

 

競歩界には、競歩界以外でも活躍できる分野を持った優秀な人材が不可欠です。マラソン愛好家やトライアスロンの世界には経営者や会社役員など、ビジネス界で活躍されている方が数多くいます。そう言った経済活動に従事する人達が競技の知名度向上、スケールに大きく貢献しているのが事実です。

 

競歩界はトップレベルの選手が非常に強く、世界の頂点に君臨しています。しかし、彼らを支える中間層、しかも人としての深い知見を持った社会人選手が少ないことが大きな課題です。

 

特に競歩は歳を重ねるごとに味が出てくるスポーツ。いつまでも楽しめる競技です。私たちと共に社会の荒波に揉まれながらも、競歩と向き合って自分を高めていきませんか?

 

ご連絡、お待ちしております!

@racewalkim (Twitter)

 

 

文=木村克也  写真=木村克也,りすのんさん(@rinon27)

 

#15 Wajima, 50km, Mr.Damian and...

4月13・14日@石川県輪島市

全日本競歩輪島大会

日本選手権50km競歩輪島大会

 

に参加してきました。

 

 

14日(日)に行われる日本選手権50km競歩へ向けて場を温めるため(?)、前日の13日(土)は

  • 全日本10km競歩
  • ジュニア3km競歩
  • スピードウォーク大会2km(主に地元小中学生が出場する大会)

の各レースが行われます。

 

 

そのうち全日本10km競歩にはSNE Athletesから

  • 木村 克也(社2)
  • 根本 侑実(社4)

が出場しました!

 

私は50km専門と名乗っていますが、仕事の関係で全然歩けておらず完歩も厳しいということで、全日本10km競歩に出場しました。

 

 

【レース結果について】

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根本侑実-千葉佐原高校-東京学芸大学-横浜市陸協-SNE Atheletes(副代表) 高校時代はインターハイ出場、学生時代は日本インカレ出場,学生選手権3位などの結果を残すが、上級生になり過度の減量や練習過多で貧血や疲労骨折に苦しむ。卒業後は一線を退くが、2018年の元旦競歩大会より復帰、同年4月よりSNE Athletesの立ち上げに参画。

 

根本選手は51分00秒で惜しくも9位でした。新年度になって業務量が急に増えたのと、直前に声帯炎を患い、思った通りの練習が積めなかったのが、反省点として挙げられるそうでした。レース後も全く身体に疲労感を感じない…と嘆いていたので、不完全燃焼感の強いレースとなったようです。

 

 

根本「スピードや持久系など単一の課題があるという訳ではなくて、全体的に噛み合っていないのが現状です。速いペースを長続きさせることができていない。レース中盤から身体の前傾が強くなり過ぎたり、ロングインターバルをあまりやっていなかったり、多岐に渡る課題を解決する必要があります。

 

今後の長期的な予定はまだ考え切れていませんが、まずは10kmの馬力を高める必要があると思っています。それが結果的に20kmを速く歩くことに繋がってくると思うので。

 

ここ最近は現状維持のような状態が続いて、少しもどかしく感じることがあります。しかし、まずは元気に歩けていることに感謝して、少しずつ進んでいこうと思います。」

 

 

根本選手は2月の日本選手権20km競歩大会で1時間44分27秒、今回の全日本10km競歩と、復帰してから1年と3ヶ月で調子を上げてきています。愉しみながら競歩を続ける根本選手の歩きには強く惹かれるものがあります。今後も根本選手の応援をどうぞよろしくお願いします。

 

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表彰台まで惜しくもあと1人届かなかった根本。力強く美しく歩くその姿に今後も期待だ。

 

 

 

【日本選手権50km競歩について】

 

1位 鈴木雄介富士通)  3時間39分07秒(日本新

2位 川野将虎(東洋大学) 3時間39分24秒(学生新)

3位 丸尾知司(愛知製鋼) 3時間40分04秒

 

ということで非常にハイレベルなレースとなりました。丸尾選手が3時間40分台で3位というのは、いかに日本の50km競歩界のレベルが異常かを物語る結果です。

 

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35~40kmのラップタイムを20分台でカバーした両選手。鈴木選手はラスト10kmの落ち込みを課題と語るが、今大会で残したインパクトは絶大だった。

 

鈴木選手20km競歩で1時間16分台の世界記録、川野選手も20kmでは1時間17分台の自己ベストを持っています。圧倒的なスピードを持っている両選手が50km競歩で本格的に結果を残し始めたことを考えると、今後の50km競歩では持久系の能力に加え、高いスピードを持ち合わせることが急務となってくることが予想されます。今後、日本競歩界はどこまで進んでいくのでしょうか。

 

 

 

【50kmのレース中、筆者は何をしていたかというと…】

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ポーランドから参加のDamian Blocki選手。3時間51分04秒の自己ベストでゴール。終始安定した大振りのフォームで集団を席巻した。

 

機会があり、ポーランドからオープン参加のMr.Damianを給水サポートしておりました。なんとレースが始まるまで会った事すらなく、ファーストミーティングは彼が1km歩いてスペシャルドリンクテーブルにやってきた際というドタバタ劇。

 

私「Hey, Damian!!   I'm Kimura!!   I will support your drinking!!」

Damian「Thankl you.」

 

的な。

 

 

給水は無事全て渡すことができ、自己ベストでゴールしてくださいました。ポーランドの代表レベルの選手だそうで、今後の世界大会は彼を積極的に応援していこうと思います。

 

 

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Damian選手と。レース後にお話したらナイスガイでした。来年の輪島は一緒に歩こうと、熱い約束を交わしました。

 

 

他にも色々と書きたいことはありますが、今回はここまで。

社会人になっても競歩を続けてきて、試合に出ると本当にたくさんの人に会えて楽しいなと思います。今後も会場で私を見つけたら、積極的に話しかけてください!

 

 

 

 

#14 本を感じる体験を提供するハコ-海老名市立中央図書館

体験を提供するとはこのことかと、そう感じた時間だった。

 

海老名市立中央図書館。そこはTSUTAYAやTカードでお馴染みのCCCが海老名市とタッグを組んで運営している、本を感じる体験ができる空間だ。

 

 

ebina.city-library.jp

 

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海老名中央図書館-蔦屋書店-2015年設立 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC)が手掛ける、閲覧図書と販売図書を、スターバックスコーヒーが併設された空間で楽しめる官民一体の施設。

 

 

元々図書館として利用されていた築30年の建物の中を改装しただけあって、ワンフロアが非常に広い。そのお陰か平積みになっている本が多い。フロアの中心は今話題になっている書籍や海外関係の書籍が数多く平積み、若しくは立て置きになっていて、ビジュアル面では申し分無しだ。

 

雑誌エリアも充実しており、特に壁に何段も立て掛けてあったのが印象的だった。

ちなみにそのうちのデザイン関係の書籍を私自身も手に取り、購入してしまった。

 

 

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心にササるチラシデザイン-玄光社(2017) 広告作品を数多く掲載し、解説したデザインブック。パラパラ捲るだけでも言葉の使い方、余白の雰囲気などが感じ取れる。

 

 

 

更に館内にはスターバックスコーヒーが併設されており、借りた・買った本をコーヒーやフラペチーノ,ケーキ等を楽しみながら読むことができる。実際に私も利用した。もちろん勉強やPC利用をしている人も数多くいたが、蔦屋書店で買った雑誌を捲っている人や、図書館で借りたであろう難解そうな書籍に耽っている人も多かった。

 

そういった本を探し、手に入れて、感じるといった一連の体験を、この施設のみで完結することができる点は今までの図書館には無かった。この"感じる"といった点が重要である。コンテンツ氾濫時代と言われて久しいこの時代で、人々に書籍というコンテンツに目を向けてもらうための施策とこの施設は真摯に向き合っている。

 

私がデザインの本を購入した際の蔦屋書店員さんとの会話で、そのことを更に深く分かると思う。

 

 

 

 

「デザインやられているんですか?」

 

-最近始めました。コピー広告ですけど、どうせやるなら完成度を高めてみようと思って。雑誌コーナーに立て置きされていて見栄えも良かったので手に取ってしまいました。

 

「最近の本はデザイン系に限らず、文芸やビジネス書でも装丁に凝ってますから、ビジュアル良く魅せるのに拘って配置しているんですよ。いつもご来館なさっているんですか?」

 

-いえ、初めてです。蔦屋書店さんと官民一体で運営されている図書館があると聞いて、興味を持って足を運んだんです。

 

「そうでしたか、ありがとうございます。本をよくお読みになるのでしたら、土日に足を運んでみませんか?毎週何かのテーマに沿って市民の方々が本を持ち寄り、紹介するイベントがあるんですけど、なかなか広まらなくてね(笑)」

 

-参加したい!! けど実は土日は仕事なんです。火曜水曜がお休みで、この曜日にしか来られないんですよ。土日は結構盛況なんですか?

 

「平日でも見ての通り、かなりの人にご来館いただいておりますが、土日はもっと凄いです。キッズスペースも充実しているため、子連れのお客様も多くいらっしゃいます。マルシェやピアノコンサートも開催していて、図書館という施設が市民の方々の交流の場となるように、様々な試みをしています。

 

特にピアノコンサートは、司書が選んだ本のイメージに合うような曲を奏者が演奏してくれるというものです。このように本は読むだけでなく、五感で感じるものなんだなと多くの人に知っていただければ、まだ書籍にも活路はあるのかなと、私は信じております。

 

-興味深い話、ありがとうございます。よろしければ今のお話、私が書いているブログに書かせて頂きたいんですけど、いかがですか?(笑)

 

「どうぞどうぞ(笑)できればテーマに沿って本を紹介するイベントをもっと広めて欲しいので、どんどん書いてください。」

 

-ありがとうございました。

 

 

 

初対面の私にもこのような話を自然としてくださるあたり、素晴らしい書店員さんだったと思う。

 

本を感じる体験を提供するというのは、日頃からあまり本を読まない人にとっては良いアプローチかもしれない。出版業界は厳しいと言われ始めてからかなり年月が経ったが、このような施設が増えると、もっと書籍に親しみを持つコミュニティができ、書籍の新しい時代がやってくるかもしれない。

 

 

 

 

競歩界でも同じようなことができるのではないか?と私は思ったのであった。

 

 

 

※元旦競歩大会の結果は、次回以降に執筆するインタビュー記事をもって換えさせて頂きます。

 

 

 

#13 元旦競歩大会 出場選手紹介

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2019年1月1日。新年を占う大規模なレースが、東京都内で行われます。
 
 
 
関東で全日本クラスの選手が挙って出場するロードレースは元旦競歩以外にありません。また、出場しなくても観戦にはくるという競歩選手はとても多く、競歩界における新年の挨拶をする場としても親しまれているレースです。
 
出場しない関東圏の高校生達にも、ぜひトップレベルの競歩選手を観てもらいたいです。
 
 
 
SNE Athletesからも3名の選手が出場します。
 
【一般・大学男子20km】
9:20~
◆木村克也(社1)
◆佐々木和暉(大4)
 
【一般・大学女子10km】
11:20~
◆根本侑実(社3)
 
 
 
 
 
 -僕が歩くことで、1人でも多くの人に競歩を続けるという選択肢を採ってもらう。それが僕の歩き続ける理由です。
 
今年、フルタイムの営業マンとして企業に就職した木村。資格試験の勉強もあり、練習もろくにできない時期が続いた。それでも周りの選手の活躍を耳にすると、まだやれると自分を鼓舞し、たった数十分の時間でも歩くことに充ててきた。
 
「この1年間、同じチームの侑実さんや、佐々木のチャレンジに胸を打たれました。侑実さんは同じ社会人で、かなりハードな生活をしながら競歩やマラソンに挑戦し、楽しみながら結果を残しています。また、佐々木が高畠50kmに再度挑戦したのは嬉しかった。2017年の輪島で苦しい経験をしていたので、もう50kmはやらないのかと思っていました。結果的には残念だったけど、このチャレンジは彼の今後の成長に繋がるはずです。」
 
 
元旦競歩に向けて、十分な準備をしてこれたわけではない。 直前の記録会も不本意な結果に終わった。それでもレースに出場し続けることが大事だと木村は語る。
 
「僕の役目は結果を残すことより、学校の卒業等で競歩を続け辛くなった選手達にもう1度道を用意してあげること。地元の学生を指導したり情報を発信したりするのはその一環で、レースに出ることだって同じです。"強くないけど好きだから競歩を続ける" という在り方は、もっと多くの選手が持ってても良い。」
 
SNE Athletesの代表がついにロードレースに出場する。決して速くはない。  だが、彼の歩きにはその生き様が顕れるはずだ。
 

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木村克也-大船高校-法政大学-SNE Athletes(代表) 高校2年時に競歩を始める。ロンドン五輪の50km競歩をテレビで観たことをきっかけに50km選手を志す。大学では自分を実験台にしながら、運動生理学をベースに持久系スポーツのトレーニング理論を広く学ぶ。2018年4月よりSNE Athletes設立、代表に。
 
 
-"あと一歩の男"から脱却します。
 
国士舘大学長距離競技会の10000mW。自己ベストを25秒更新した佐々木に笑顔は無かった。ゴールタイムは44分02秒62、43分台まであと3秒余りと、惜しいタイムだったからだ。
 
 
「5000mを過ぎたところで同じ集団にいた選手が大幅にペースを上げ、それに反応することができませんでした。そこで少しペースを落としてしまい、立て直すのに力を使ってしまいました。」
 
 ゴール後に悔しさを全面に出すスタイルは、 今も昔も変わらない。試合で悔しい思いをする度に彼は一回りも二回りも成長している。
 
 
今年は難しい年だった。就職活動に追い込まれ春シーズンは殆どレースに出ることはできなかった。関東選手権では入賞を果たしたが、続く全日本50km競歩高畠大会では途中棄権、精神的に難しい年だったかもしれない。
 
「1時間30分切りが目標です。ペース配分が課題になりますが、1人で歩くことに対しての苦手意識はもうあまりないです。このレースで、2月の日本選手権に弾みを付けたい。」
 
来年からは社会人になる佐々木。  好スタートを切りたい 。

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佐々木和暉-横浜高校-早大同好会-SNE Athletes 同じ高校の先輩である松永大介選手(富士通)に憧れ競歩を始める。現役の早稲田大学4年生。2018年2月に20kmWで,12月には10000mWで自己ベストを更新。

 

 

 

-久しぶりに「ちーん」ってなってる。

珍しく不本意そうだった。
 
2018年 10月28日 高畠競歩大会
根本は女子10kmに出場し、6位入賞を果たした。タイムは52分04秒。
 
上位入賞,50分切りを目指していた根本にとってはやや物足りなかった。
 
 
復帰レースから1年となる。だがまだ焦る事はない。
彼女の長い競技生活はまだ号砲を鳴らしたばかりだ。
 
 
 

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根本侑実-佐原高校-東京学芸大学-横浜市陸協-SNE Athletes副代表 佐原高校時代にはインターハイ出場。学芸大時代はストイックは生活による体調不良や故障等で思うように歩けない時期が続き、大学卒業を機に一時引退した。2018年の元旦競歩で復帰し、同年4月よりSNE Athletesに参画、副代表に。競歩以外にもハーフマラソンやトレイルランのレースにも出場し、運動することの歓びを伝えて生きる、パワフルな選手。

 

 

 

今回の元旦競歩大会には、2019年の日本選手権20km競歩で引退を表明している

谷井孝行選手(自衛隊体育学校)がエントリーしています。

 

谷井選手は僕が憧れている選手の1人です。僕はロンドン五輪の50km競歩を観て、大学では50km競歩に挑戦したいと決心しましたが、そのときに日本代表として出場されていた3人のうちの1人が谷井選手です。

 

もうそんなに月日が流れてしまったのでしょうか。

今年の元旦競歩は僕の中で、今までとは少し違う特別なものになりそうです。

 

競歩関係の皆様、明日はよろしくお願い致します。

良いお年を。

 
 

#12 第57回全日本50km競歩高畠大会 出場選手紹介

2018年10月28日 午前8時00分 山形県高畠町
 
50kmに及ぶ熾烈な闘いの第1歩を、この国の鉄人達が歩み始める時間だ。
 
 
 
競歩選手達の中でも50km競歩は特別な種目である。どんなに経験を積んだベテランでもレース中に何があるか分からず、自分の置かれた状態を常に把握しながら歩まなければならない。
 
自身のペース配分を始めフォーム,体水分量,カロリー摂取状況,体温,精神状況などを常に把握しながらライバル選手のみならず天候・気温を意識して約4~5時間、集中し続ける必要がある。
 
 
筆者は"競歩は愉しいものだ”と公言するが、50km競歩で上位を目指していくのは本当に厳しい。しかし、この種目に義務感ではなく、自ら進んで挑戦しようとする選手がSNE Athletesには2人もいる。
 
今回、50km競歩に出場する神奈川県出身の選手はこの2人のみだ。しかも両名とも、競歩の名門校として名を馳せるあの「横浜高校」出身の選手である。彼等の活躍が今後、神奈川県で競歩に取り組む学生達に勇気を与えることを切に願う。
 
 
 
1500mも, マラソンも,50km競歩もやる。誰もやったことのない3刀流です。
 
そう語るのは1500mで4分05秒という、それだけでもハイレベルと言える自己ベストを持つ、大西和哉その人だ。 
 

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大西和哉 港南中-横浜高-横浜市陸協-SNE Athletes 港南中時代に陸上を始め、横浜高校時代は駅伝選手として活躍。大学に入り競歩にも取り組み始める。9月よりSNE Athletesに参画。自己ベスト:フルマラソン2:49'04 50km競歩4:41'42




 

 
 自己ベストは高校のときのものだが、 大学に入ってからも4分07秒で走破した実績がある。大学の駅伝部に所属することなく、長らく市民ランナーとして活躍していた。
 
 競歩は大学に入ってから始めた。5000m競歩のレースに数回出場し、競歩の魅力に誘われた。2016年の全日本競歩高畠大会では10000m競歩,20km競歩を未経験ながら50km競歩に挑戦し、4:41’42という記録で完歩した。
 
その後は競歩から離れたが、その年の12月に行われた第6回伊豆大島ラソンで初フルマラソンに挑戦し、2:49’04で優勝。見事にサブ3を達成するなど、並々ならぬパワフルさで様々な挑戦をしてきた。
 
「2016年のレースでは、"50km競歩”という種目を知ることができました。厳しさも、愉しさも。」
 
 
今大会では4時間35分切りが目標だと大西は語る。
 
「思うことは、ひたすらに”やらかしたい”。どういう事かというと、楽しさを爆発させて気づいたら驚く結果も出てたっていうイメージ。」
 
 
1500mもフルマラソンも50km競歩も、愉しいから取り組むのだというスタンスの大西。
この大会のためにSNE Athletesに参画することになった。競歩の愉しさを追求する彼は、予てからSNEのユニフォームに袖を通す運命だったのかもしれない。
 

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大きな腕振りとしなやかな股関節の動きが特徴的な大西。50kmの旅路をどのように調理するのか。 写真提供 どすこい様(@dsdsdskoi300)
 
 
 
 
進路も決まったんで、もう迷うことはない。やってやりますよ。
 

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佐々木和明 茅ヶ崎中-横浜高-早大同好会-SNE Athletes 横浜高校時代に同校の先輩である松永大介選手(富士通)に憧れ、競歩を始める。大学に入ってからも着々と実力を付け始め、陸歩クラブの練習会を纒める理事を歴任。SNE Athletesの創設メンバーとして参画した。自己ベスト 20km競歩:1:30'53
 
佐々木は名門、早稲田大学の4年生だ。来年からの就職先も決まり、春シーズンと比べて精神的にも余裕が出てきた。
 
トラックシーズンはここ一番という関東陸上競技選手権大会5000m競歩で後輩にラストスパートで競り負け、4位でゴールするなど、不完全燃焼のイメージがあった。そのイメージを払拭すべく、夏明けの練習からは常に良いイメージで練習を継続することを心掛けてきた。
 
「自分の体調に合わせて、距離をあえて踏み過ぎないように気をつけてきました。あくまで本番で50kmをきちんと歩き切れればいいので、練習で満足することだけはないように、自分の内面と向き合っています。」
 
佐々木は50kmに向けて慎重だ。それは2017年の日本選手権50km競歩輪島大会において、オーバーペースで突っ込んで30km地点で途中棄権した経験があるから。当時のことをこう語った。
 
「あの時、周りには"何で棄権したんだ”とか、”まだいけそうだったのに”とか、指摘を頂きました。確かに動きに余裕があったのは事実ですが、オーバーペースで歩いていたのを自分で気にしていて、ペースが落ち始めた25km地点から、あと25km何とか歩いてゴールするビジョンが自分には見えなかった。練習が出来ていただけに、50km競歩に対する驕りがあの時はありました。」
 
 
1年半の間、佐々木は次の50kmに挑戦するためのイメージを膨らませてきた。クレバーにレースを進めること、佐々木がやるべきことはそれだけだ。
 
 
 
 
 
 
 
そしてもう1人。
同日開催の女子10kmの部にSNE Athletesの副代表、根本侑実が出場する。
 
 
 
「"楽しそうだね” と言ってもらえるように、できるだけ速く,生き生きと歩きます」
 

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根本侑実 佐原高校-東京学芸大学-横浜市陸協-SNE Athletes 学生時代に全日本インカレ,日本選手権など一線で活躍。大学卒業後は競歩を引退したが、今年の元旦競歩大会から復帰し、4月からSNE Athletes創設メンバーとして参画。競歩を愉しむことをモットーにし、強いメッセージ性を秘めるチームの副代表。
 
言わずもがな、ここではお馴染みの根本だ。
フルタイムワーカーゆえ、休みを取るために上司に頭を下げたに違いない。
 
目標は入賞。それ以外は語らなかった。レース直前に多くを語るのは苦手だと言う。
 
今年に入って現役復帰し着々と実力を高めてきた根本は、今大会で復帰後初めて、順位を目標として口にした。今回は順位の方が、タイムよりもワクワクするのだと彼女は語る。
 
 
紅紫色のユニフォームを纏う彼女の姿は、誰よりも目立つはずだ。彼女の競歩に対する愛を、観戦者には現地でぜひ堪能して欲しい。
 
 

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練習後でも疲れた表情を見せず、満足そうに振る舞う根本。レース後に玉こんにゃくを食べながら、充実した表情を浮かべることだろう。
 
 
日本を代表するトップ選手も数多く出場する今大会。
観戦する方々には上位陣はもちろんのこと、全ての選手に声援を向けて欲しい。
 
 
 
 

#11 大和千秋選手 ”やりたい!時が1番歩ける”

2018年4月15日
輪島で行われた女子50km競歩
歴史に残る5時間だった。
 
 
昨年のロンドン世界陸上競技選手県大会において、世界大会史上初となる女子50km競歩のレースが開催された。50km競歩廃止の声も上がる中、 陸上界としては大きな前進であった。
 
 
しかしその場にサンライズレッドの姿はなかった。日本には女子が50km競歩選手を選考するためのレースがなかったからだ。
 
 
それから平成最後の年となった今年4月、ついに日本陸連主催の女子50km競歩のレースが執り行われた。
 
 
 
その史上初の50km競歩選手としていち早く、 出場に名乗りをあげていた選手がいる。
 
 
大和千秋、その人だ。
 
高校時代は全国経験もなかったが、大学入学後ブレイク。 日本選手権入賞などを重ね、卒業後は長野県の飯田病院所属選手として成長してきた。
 
 
彼女の競技観は今日に至るまで、大きく変わってきている。そんな彼女の現在の心境について、詳しく訊くことができた。その内容をお伝えする。
 
 
 

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大和千秋-須坂園芸高-中部学院大-飯田病院 20kmWの自己ベストは1時間35分58秒。高校時代は全国区という訳ではなかったが、大学進学以降、日本選手権入賞などを重ね、長野県の実業団「飯田病院」所属選手として活躍。




 

 
―合宿お疲れ様でした。 神戸の日本選手権でお会いしたのが最後だったので、合宿で会うのは実に半年ぶりでした。その間、日本国内初の女子50km競歩開催,その初回選手として出場され、堂々の完歩(4時間48分46秒)を果たされました 。
 
 
大和 合宿ではあんまり久し振り感なかったね(笑)
 
50kmは皆さんの応援やサポート,アドバイスがあり、無事にゴールできました。それからレースには何本か出たけど、今は精神的にちょっとお休み中。軽めに練習しながら最低限歩く感触を忘れないようにして、次の目標を探ってる段階です。
 
 
―今後のスケジュールはまだ特に決めていないんですね。
 
 
大和 全日本実業団選手権は回避しようと思っています。高畠の50kmは捨て切れないけど、今後の競技キャリアはまだまだ続くし、そういった長い目で見ると焦って出ようとしなくても良いのかなと考えてもいます。 もう少し様子を見て決めることですね。
 
 
50km競歩出場の経緯
 
 
―そもそも、なぜ輪島の50kmに出場しようと決意されたんですか?
 
 
大和 以前から50km競歩自体に強い興味がありました。自分は短い距離より長い距離の方が味が出ると思っていて。2016年後半から2017年前半にかけての冬シーズン、各種目で自己ベスト更新が続いた時期があったのですが、そのときは25kmとか30kmとかやっても非常に高いレベルで歩けていて、「女子にも50kmがあったら良いのにな」なんて頭の片隅で呟いていました。
 
 
―そんな中2017年の輪島で、2018年の女子50km競歩開催がアナウンスされました。
 
 
大和 これは出るしかないと思いましたね(笑) で、その後すぐに50kmを意識し始め、トラックシーズンが終わってから本格的に長い距離のトレーニングに移行しました。
 
 
 
本番に向けて
 
 
―その50km初レースは4時間48分46秒で4位という結果でした。振り返ってみてどうですか?
 
大和 まずは完歩できてホッとしました。でもゴールしてからジワジワ悔しさが込み上げてきて、もっとやれたなっていう想いが強くなりました。元々4時間30~40分を視野に入れて準備していたのですが、調整に移る時期に腰を痛めてしまい、レースの14~7日前の期間はほぼ練習することができない状態でした。仕事には出ていたので、日常生活は通常通り過ごせていたのですが…。
 
 
―僕もレース前にそれを聞いていて、びっくりしました。周りの反応は?
 
 
大和 コーチと相談して、多少の痛みがあっても出場する予定でした。職場の方々は「本当に出るの?」って感じで、止めようとしていたみたいです。でもレース直前に痛みは引き、お陰さまで完歩できましたが、ブランクが出来てしまったせいか動きの感覚が噛み合わず、不安などもあり少し物足りない結果に終わってしまいました。
 

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前列左-先頭集団で果敢に攻めた 撮影 @dsdsdskoi300 さん



 
 
―改めて、レースまではどういった流れでしたか?
 
 
大和 昨年のトラックシーズンが終わってから本格的に長い距離を中心とした練習を積み始めて、12月には練習の一環で東京で行われたフルマラソン競歩で出場したりしました。サブ4を狙っていたのですが、給水が普通の水ばかりで、歩いている途中に極度のエネルギー不足を体験しました。なんとかゴールはしましたが…。そこでレース中のエネルギー補給の大切さを諸に実感して、勝木(隼人,自衛隊体育学校)くんや樋熊(敬史,NWS)さんを始めとする周りの50km選手にアドバイスをもらいながらエネルギー戦略について自分なりに考えました。本番の50kmではそれが活きて、最後までエネルギー不足を感じることなく歩き切ることができました。
 
 
―その直後の元旦競歩10kmは50分16秒でした。
 
 
大和 それまで長い距離の練習がメインだったこともあって、 スピードに自信がありませんでした。実際にレース中もキレが感じられず、身体ばかりがキツくなって心肺機能の部分で全く辛さを感じなかったので、とにかく身体が速い動きに付いて感触です。
 
 
―その2月の日本選手権20kmでは持ち直しました(1時間39分47秒)。
 
 
大和  1月に宮崎県で行われた実業団の合宿に参加させて頂いて、暖かい環境でインターバル系のトレーニングを積んだので少し速い動きを取り戻せて、その結果です。自己ベストと比較すると物足りないけど、50kmを見据えながらのレースなので、想定の範囲内でした。
 
それからちょっとだけ休んですぐに50kmに切り替えました。週1回の頻度で30kmを歩いたり、ロングインターバルをやったり、長い距離中心の時期を作った格好です。このときに少し無理をし過ぎた感じがあって。今思えば、練習量が増えてるのに食事とかケアとかを、身体にかかる負荷に見合ったレベルで考えられてなかった。やっぱり負荷の高い練習をすればそのぶん休まなきゃいけないし、ストレッチとかマッサージとかもしなきゃいけないし、何より食べなきゃいけない。腰を痛めてから、この基本的な部分の大切さを痛感しました。
 
 
―レース中はどうでしたか? 
 
 
大和 先頭集団はスタートから5分20秒/km前後で推移していました。序盤はその集団のなかで歩いていたのですが、 フルマラソンの際のエネルギー切れ,腰の不安など、恐れるものがいくつかあったのもあり、集団から離れてしまいました。
 
 
―でもその後、しっかり粘ることができました
 
 
大和 はい。アナウンスで谷内さんが私のことを紹介してくださっていて、集団から遅れたときも前向きなことを言ってくださって、沿道の方々の応援もあり、気持ちを切らすことなく後半も歩けました。
 
また、同じコースを歩いていた男子選手が集会抜かしの際に声をかけてださって、それもとても力になりました。
 
 
―50kmの旅路は楽しかったですか?
 
 
大和 歩いているときは完歩することだけ考えていて余裕があまりなかったのですが、振り返ってみて本当に楽しかったと思いました。
 
応援とかアナウンスがとても会場を盛り上げてくれて、ゴールした後の男子選手とかスペシャルドリンクテーブルにいた人たちとか、そういった皆さんの顔を毎周回見るのが楽しみで、キツイ気分も少し紛らわすことができました。
 
 
”競技を愉しむことが1番大事”
 
 
―これからの競技キャリアはいかがですか?
 
 
大和 今までは2020年の東京オリンピックを目標にしていました。でも今はどちらと言うと、競歩を自分自身が愉しんで、それを周りに伝えていけるような競技人生を歩みたいし、そういった感性もより一層育んでいきたいです。
 
 
私は大学を卒業してから飯田病院で競技をやらせて頂いて、本当に恵まれた環境で過ごしました。普通の社会人だと練習の時間を取ること自体が大変なんだろうけど、その辺りは早く仕事をあがらせて頂ける等の配慮をしてくださったし、病院ということもあって検査とかも優遇されていて、周りもたくさん応援してくれて、至れり尽くせりでした。
 
でもそんな環境にいたからこそ、自分で自分を追い詰めるようになりました。
 
大学のときは、例えば調子が悪くてモチベーションが上がらない時、 練習を多少休んだりしても周りになにか言われるということはありませんでした。大学は休みたいときはしっかり休んで、モチベーションを回復させたいという私の我が儘を受け入れてくれる環境で、私自身もそのような行動を取りやすいカテゴリーでした。
 
しかし大学を卒業して飯田病院で実業団選手として過ごす間、そういった思考にはなれませんでした。 支援されてるからには結果を出さなければならないという気持ちが強くなって、 調子が良いときは 特に気にしなかったのが、不調や怪我で落ち目なときは結果を出すことに対する強迫観念で、自滅していきました。こんなに良い環境で競技をやっているのに調子良く歩けないのは自分の努力が足りないからだ, やる気が出ないなんて甘ったれだ, って考えてしまって、それがより一層自分の調子を落とす方向に向かわせてしまい、という悪循環。大好きな競歩をやっているはずなのに、どうしてこんな思いをしなきゃいけないの?って、どんどん自己嫌悪に陥っていきました。なんだかなって感じだよね(笑)
 
 
―よくわかります。もっと低いレベルですが、僕もそのような時期が過去にあって、自分の内側からのやる気より外側からのプライドが上回ってたときは、何をしてもうまくいきませんでした。自分ならできるはずだ、こんなものじゃない。そう奮い立たせようとする度に結果という現実が立ち塞がって、更にモチベーションが下がる。 "歯車が噛み合わない"とはまさにこのことです。
 
 
大和 調子が良かったときはやりたいやりたい!っていう内から湧き出てくる気持ちで進んでるときだよね。 競歩を真の意味で愉しめてないと、そういった感情にはなれない。
 
 
飯田病院の方々には本当に感謝しています。ここまで競技を極めてこられたのは皆様のお陰です。今回はたまたまライフサイクルが変わることで所属を離れることになったので、これを期に競歩を愉しむ方向から競技に取り組んでいこうと思っています。
 
 
―最後に、競歩に取り組む若い選手達にひとことお願いします。
 
 
大和 まずは競歩を愉しんで欲しい。自分から競歩をやりたい!って思って練習しているときがきっと1番歩けるはずだから。
 
競歩は特に、最後まで諦めなければ何があるかわからないスポーツです。上の選手が失格するかもしれないし、大きく失速してくるかもしれない。同じように、競歩を少しずつでもやり続けながら年を重ねていけば、私が50kmに挑戦できたように、もしかしたらチャンスが巡ってくるかもしれない。しかも競歩を通じて色んな人に会える。
 
もちろんみんな競歩以外にも自分の生活があって、それがあっての競歩だと思うのでそれぞれが楽しくハッピーに過ごせるような頑張り方ができるようになって欲しいです。
 
あとね、ちょっとまとまらないんですけど、2017年頃から父が競歩を始めたんです。「千秋、どうやったらもっと速く歩けるかな?」とかって、帰省する度に訊いてきて、競歩を始めたばかりの自分をみているようで、すごい懐かしい感じがしてるんです。
 
この始めたてのフレッシュな好奇心とか,愉しさっていうのを忘れないことが自分にとって大事なことなんだなって思ってます。これこそが"初心忘れるべからず"なのかな、と。
 
 
―興味深いお話、ありがとうございました。これからも競歩人生を愉しんでください!
 

#10 根本侑実選手 独占インタビュー

筆者は8月12日から16日にかけて濁河温泉スポーツレクリエーションセンターで行われた社会人競歩選手の強化合宿に参加しました。SNE Athletesからも筆者含め3人の選手が参加。その中で特に今シーズン、大きな進化を遂げている根本選手から話を訊くことができました。
 
深く話を掘り下げてみると練習や競技に対する姿勢などが、今と学生時代とでは大きく違っているそうです。そんな彼女に今シーズンの振り返りやこれからの展望、若手へのメッセージなどを話してもらいました。
 

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根本侑実-佐原高校-東京学芸大学-横浜市陸協-SNE Athletes 高校時代にインターハイ出場。東京学芸大学在学中は全日本インカレ,日本選手権などに出場経験あり。大学卒業後は競歩を一時引退したが、今年の元旦競歩大会から復帰し、4月からSNE Athletes創設メンバーとして加入。

 

 
 
(取材は8/15、20kmのロングが終わった日)
 
―練習お疲れ様でした。今日の練習は見ててとても良かったです。
 
 
根本 ありがとうございます。先月の学芸大学ナイターが終わってからあまり練習が出来ていなくて、この合宿に来るまでは練習をきちんと消化出来るか少し不安でした。でも標高約1700mという高地の環境で、 中1日で20kmを2回歩けたので状態が悪いわけではないんだなと自信を持つことができました。
 
 
―今年の7月は例年と比べて特に暑かったですし、難しかったかもしれないですね。
 
 
根本 それはあると思います。学生時代は暑さに強かったんです。でも大学を卒業してから復帰するまで、第一線のレベルで練習をしていない期間が1年半くらいあって、復帰してから初の夏なのでまだ暑熱順化がうまくできてない部分があったんだと思います。普段もクーラーが効いてるところで仕事をしているので、体温調節をしなくてもいい環境にいることが多いというのも要因の1つですね。
 
 
―ここ(飛騨御嶽)は酸素濃度こそ薄いですが、気温も湿度も低いので、涼しくて練習しやすい環境でしたね。 フォーム面も伸びやかな腕振りが常に安定していて、学生時代とは大きく変わってきています。
 
 
根本 涼しかったし、 集団のペースも安定していて歩きやすかったです。フォームについては復帰してから1度、藤野原さんにアドバイスを受けたことがあって、そのときに教わったフォームについての考えがとても府に落ちたのもあって、そこから競歩の動作について真剣に考えるようになりました。そのお陰かな?
 
 
―どうりで僕が好むフォームで歩いてる訳ですね(笑)  侑実さんは心肺機能が高いし、元々体を速く動かす素地はあったので、あとはいかに大きな動作を安定させるかが肝要だと思ってました。
 
 
侑実 今は学生時代と比べて練習時間を多く取れる訳ではないので、フォームについて究めることは大事だと考えています。
 

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終始安定したフォームで合宿のロングを歩き切った。

 

 
―神奈川県選手権についてお訊きします。25分29秒84で3位という結果で、SNE Athletes 創設1年目で既に2回目の表彰台となりました。この結果は侑実さん自身ではどう捉えていますか?
 
 
根本 まず、タイム的には納得できてないです。24分台はいけるんじゃないかな?と思っていました。まだ少し歩型に不安があって、 実際にレースを歩いているときは脚がついてこない感覚があり、呼吸も全然上がることなく、レースが終わってしまいました。疲労もほぼなく、不完全燃焼感が強いレースでした 。
 
 
―レース展開はどのようなものだったのですか?
 
 
根本  全体的にローペースでスタートしました。 私は先頭集団につきましたが、途中のペースアップで集団についていけないと判断し、第2集団で様子を伺う運びになりました。  順位を強く意識するならついていくべきでしたが、ハイペースで押していって勝ち切るビジョンが見えず、周りより自分のペースを優先する方が後半の勝負に繋がると思い、 結果的に3位に落ち着いた形です。
 
 
―その1週間後の学芸大学ナイターでは51分13秒99で全日本競歩輪島大会のときより15秒ほど速いタイムでゴール、シーズンベストとなりました。
 
 
根本 こちらも目標は50分台だったので、満足はしていません。元々輪島が終わってから、その前と同レベルのモチベーションを持ちづらい側面がありました。海外旅行に行った後の国内旅行って、ちょっと物足りない気がすると思うんだけど、そんな状態で。輪島から現状維持をしているだけって感じ。ハードセッションも酷いときは週1回とかで、スピードを上げた練習も少なかった。
 
 
 
―レース中は何を意識されたんでしょう?
 
 
根本 記録会なのと、元々他人との勝負とかは眼中になく、自分と時計との勝負だと思っていました。それとこの頃からフォームには自信がついてきていたので、1人で歩いても大きく崩れることはないという自信はありましたので、集中力だけは切らさないように注意しました。
 
 
―今回侑実さんの話を聴いてみて、ご自身としては100点をつけられないかもしれませんが、復帰して最初のシーズンとしては非常に良い調子でここまできていると思います。次は高畠競歩の10kmに出場されるとのことですが、展望を教えてください。
 
 
根本 まずはお休みを取れるように上司に頭を下げます(笑)
 
レースについては上位入賞を目指しています。もう神戸の日本選手権は出られるので、神戸を見据えて少し長めの練習に取り組む予定です。今は人と練習できるのは週1回のみで、練習をしていくにもレースをきちんと歩くにも、1人で練習できることが大前提になってくるので、そういった慣れの部分にも意識を巡らせる必要があるかなと思います。
 
 
―ここまで一貫して"順位よりタイム"を掲げてレースに向かっていた印象ですが、ここにきて目標が"上位入賞"と順位を狙うものに変わりました。これにはどういった心境の変化があったのでしょう?
 
 
根本 心境の変化というものはないかと思います。競技者としては、ん?と思われるかもしれないですが、その試合までワクワクできるような目標が、今回は順位だと思ったからです。この試合でこの結果を残すためにこの練習をして...というものではないです。いかに陸上競技を楽しむ毎日であれるか。その結果が嬉しい結果になるのを想像すると、どんなに毎日が楽しくなるか。と考えています。
あとは、SNE Athletes が発足したばかりなので、チームのために名前を売っていけたらと思います!
 
 
―大学時代にもそのような考えはありましたか?
 
 
根本 なかったです。高校時代とか学生時代とかは強烈な闘争心があって、それによる強迫観念がありました。"結果を出さなければ自分が競技を続けている意味はない", "早く結果を出さなければ引退の時期が来てしまう" と、タイムリミットにも追い込まれていました。
 
 
―僕も以前、侑実さんからその雰囲気を感じていました。いつも何かに焦っていて、厳しく練習しているのに、どこか歯車が合っていないような…。
 
 
根本 当時は競技をやる以上、緊張感を持って日々取り組むことが大切だと思っていました。でもそうじゃない世界もあって、むしろその方が調子が良い感じがしています。
 
 
―僕も普段から"厳しくやることが強くなるための最適解ではない"と掲げています。
 
 
根本  本当にそう思います。自分を追い詰めて強くなろうとすると短期的には良いかもしれないけど、それは続かないです。今回の合宿には本当に競歩が好きな人が集まっていて、先輩方を見ているといつまでも競技を続けられる気がします。最近練習をご一緒させて頂いている陸歩クラブのみんなも競歩を本当に愉しそうにやっていて、木村みたいに、後輩でもしっかり指摘やアドバイスをくれる後輩もいるので、今は前向きに競技を続けられています。
 
 
―今は競歩が愉しいから続けているんですね。
 
 
根本 小学校のときに戻ったような気分です。速くなることそれ自体が愉しい。試合に出られるのが決まるととてもワクワクします。遠足の前みたいな感じで、あと何週間,あと何日,ついに明日!みたいに(笑) 今はレース後、結果がどうであれ前向きに次の目標を立てられます。調子が悪くても憂鬱になることはないですね。
 
 
―ちなみに、50km競歩挑戦の予定はありますか?
 
 
根本  来年の高畠で挑戦できるように頑張りたいです。元々長い距離は走るのも歩くのも好きで、市民ランナー時代にはサロマ湖100kmの出場を考えたりしてました。
 
 
―個人的にはとても楽しみです。 最後に若い選手へメッセージをお願いします。
 
 
根本 現在競技を続けるか迷っている人や、怪我で悩んでる人、結果が出なくて辛い人へ。私は高校時代から学生時代前半にかけて全国大会等で成績を残しましたが、学生時代後半は練習のし過ぎや過度な減量による怪我や体調不良などでとても悩みました。でもそれを自分の努力が足りないからとか才能がないからとか、自分を責めないで。皆さんが積み重ねてきた努力は、1回の練習、数ヶ月のブランクくらいでは絶対に無駄になったりはしません。1度フラットな目線で、その厳しさは本当に強くなるために必要なのか、そもそも自分は何を積み重ねていくべきなのか、考えてみてください。
 
 
―ありがとうございました。
 

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競歩を愉しむことをライフワークとしている根本選手。彼女の旅路の征く先には、どのような青写真が描かれているのだろうか。

 

(文・写真:きむらかつや @racewalkim )